1993年のおもな自然保護活動



1.厚木市荻野のオオタカ生息地の保護問題

2.環境アセスメント条例の貴重種の基準について



神奈川支部では,鳥類の生息地の保護を中心に様々な保護活動に関わっている.
1993年に行った活動の中から,厚木市のオオタカ生息地の問題と,神奈川県の環境アセスメント条例の問題点に関する経緯を報告する.


●厚木市荻野のオオタカ生息地の保護問題

 1993年の繁殖期に厚木市荻野の山林でオオタカが営巣していることが確認された.
 支部ではこの情報をキャッチし,2回にわたって厚木市に対して要望書を提出した(資料1・2).
 その結果,厚木市では当初計画されていた荻野運動公園拡張にともなう土地整理事業を凍結し,オオタカの生息調査を実施して,その結果をふまえて,全体計画の見直しをすることになった(資料3・4).
 調査は1994年1~3月を予備調査,4月以降を本調査としてアジア航測(KK)が委託を受けて実施している.
 支部としては,厚木市・アジア航測と数度の打ち合わせを持ち,適切な調査が行われるように必要な情報提供を行っている(資料5).
 また,新聞報道がされたために現地に観察のために立ち入る人が増え,地元から迷惑だとの声が出ているという指摘もあり,それを受けて厚木市在住の会員に対して慎重な行動を求めるダイレクトメールを出した(資料6).
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資料1 神奈川支部が厚木市長あてに提出した要望書

平成5年8月20日

厚木市長殿

          日本野鳥の会神奈川支部 支部長 村上司郎

厚木市荻野で繁殖したオオタカの保護について(要望)

貴職におかれましては,日頃より環境保全のための施策に力をいれておられることに敬意を表しております.私ども日本野鳥の会神奈川支部は,野鳥を中心に自然に親しみ守ることを目的とした市民団体で,現在約3000名の会員が所属しております.野鳥観察を楽しむだけではなく,継続的な調査などによる,自然環境についての情報収集も積極的に行っております.
 さて,厚木市荻野一帯は,都市近郊にあっては現在にいたるまで良好な環境が保全されており,丘陵地の生物相がよく保たれた地域として,以前より関心をよせておりました.本年春に,地元会員から当地にオオタカが生息しているとの情報が寄せられ,営巣を確認することができました.ところが,現地では開発の準備と思われる測量が行われており,また平成5年7月29日付けの朝日新聞によりますと,中荻野総合運動公園の拡張が報じられ,オオタカへの影響が心配になっております.
 オオタカは,平成5年4月1日に新たに施行された「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の中で,国内希少野生動植物種にリストアップされております.
 この法律では,その生息地を必要に応じて保護区として指定することもうたわれており,「地方公共団体はその区域内の自然的社会的諸条件に応じて,絶滅のおそれのある野生動植物種の保存のための施策を策定,実施するよう務めること」が定められています.
 こうした法律の趣旨にも鑑み,下記の点について善処方を要望いたします.
 本件につきましては,早い機会に担当部課の方と直接お話ができる機会を作って頂けるようお願いいたします.なお,この要望書と同様な内容の書面を市議会議長および各会派にもお送りしましたのでお伝えします.
・荻野地区の開発計画の詳細について明らかにしてください.
・現地でのオオタカの繁殖および生息状況について,詳細な調査を行ってください.
・調査の結果をふまえて,現在進行中の開発計画を見直し,オオタカの継続的な繁殖が可能な環境
 保全をはかってください.

                                                          以上

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資料2 神奈川支部が厚木市長あてに提出した再要望書
                                         平成5年10月20日
厚木市長殿
          日本野鳥の会神奈川支部 支部長 村上司郎

厚木市荻野で繁殖したオオタカの保護について(再要望)

 貴職におかれましては,日頃より環境保全のための施策に力をいれておられることに敬意を表しております.さて,さる8月20日付で「厚木市荻野で繁殖したオオタカの保護について」として要望書を送らせて頂きましたが,その後ご検討頂きましたでしょうか.私どもは,オオタカの繁殖が終了した8月から9月にかけて,独自に現地での現状調査を行いました.また,9月29日には当会の者が市役所にお邪魔をし,荻野一帯の開発の全体計画について話を聞かせて頂きました.それらを通じて得た情報をもとにして荻野のオオタカ繁殖地について再度要望書をさしあげる次第です.よろしくご検討ください.
 なお,神奈川県下でオオタカが平成5年度に確実に繁殖したのは,厚木市以外では平塚市の1例があるだけで,神奈川県のオオタカはきわめて貴重な存在になっております.新聞報道によりますと,八王子市内のオオタカ繁殖地では予定されていた住宅団地建設を1年間凍結し,現状調査を行うことになっております.このような事例に見られるように,オオタカの保護は各方面の注目を集めているところであり,貴市におかれましても,オオタカの重要性に十分な配慮を頂きたいと思っております.
1.オオタカの営巣地を中心にオオタカの保護区を設定してください.
 先の要望書でもふれましたが,オオタカは「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の中で,国内希少野生動植物種にリストアップされており,この法律ではその生息地を必要に応じて保護区として指定できることがうたわれております.貴市が環境庁,県と連携をとりながら,保護区を設定されれば,全国に先駆けた英断になろうかと期待しております.営巣木周辺の山林の買い上げも含めてご検討ください.
 なお,オオタカが本年度営巣した樹木には現在,伐採予定であるかのように目印のテープが巻かれております.これが土地改良事業と直接関連したものかどうかは分かりませんが,伐採が行われるようなことのないように至急対処してください.

2.来年度は土地改良事業を凍結しオオタカの生息状況調査を行ってください.
 開発計画によりますと,運動公園の拡張自体は,オオタカの生息に目立った影響はないと予測されます.しかし,土地改良事業に伴う立木の伐採と谷戸の造成はオオタカの繁殖に大きな影響を与える恐れがあります.いずれにしても,荻野のオオタカについては行動圏,採餌場所,食性などの生態についてほとんど未解明の現状です.
 従って,少なくとも来年度は,土地改良事業に伴う工事は凍結して現状変更を行わないようにし,そうした生態について専門家による詳細な調査を行ってください.

3.オオタカ保護区の設定を念頭において土地改良事業の見直しをしてください.
 先に述べたように土地改良事業に伴う立木の伐採と谷戸の造成はオオタカの繁殖に大きな影響を与えることが懸念されます.ただし,安定した農地の存在はオオタカの生息にとってプラスの条件でもありますので,計画規模を縮小することで,オオタカの生息と両立できる工夫が可能ではないかと思います.
 来年度の調査結果をふまえて,そうした検討をしてください.

4.オオタカの生息について地元の理解をはかってください.
 東京都ではオオタカが営巣した木が伐採されてしまった例があり,オオタカが生息を続けるためには,地権者を中心とした地元の理解が不可欠です.
 地元に対してオオタカに関する市としての姿勢を表明し,理解を求める努力をしてください.


                                                  以上

資料3 1993年11月20日付け神奈川新聞記事(省略)

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資料4 厚木市からの神奈川支部への回答

                                           平成6年1月12日
 日本野鳥の会神奈川支部 支部長 村上司郎 様
                                          厚木市長 足立原 茂徳
要望について(回答)

 先般あなた様からいただきました要望につきまして下記のとおり御回答申し上げます.
 オオタカにつきましては,営巣地が確認されたことに伴い,生息と保護のために地域の理解と協力が得られるよう適切に対処するとともに,土地利用計画と調整を図りながら,周辺地域の現状調査と生態調査を行ってまいりたいと考えております.

             事務担当課  環境部環境保全課 電話 25ー2750(直通)
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資料5 オオタカの生態調査についての打ち合わせメモ

オオタカの生態調査についてのメモ
1993.12.2 日本野鳥の会神奈川支部
※必要な調査内容
1.オオタカは1994年も繁殖するか
 繁殖経緯の把握(造巣・抱卵・育雛・巣立ち・巣立ち後の親子の行動圏)
 行動範囲の推定,特に採餌場所の確認

2.なぜオオタカは荻野で繁殖しているのか
 繁殖条件の推定(営巣林の環境特性・採餌場所との関係)
 営巣林周辺の植生調査

3.オオタカを守るためにどんな手段が可能か
 必要な保全面積およびその植生管理についての検討
 既存の計画との整合性の検討

※留意事項
・地元地権者に理解を求める.
・オオタカを中心とした谷戸の生態系の保全を目標とする.
・情報流出(具体的な営巣ポイントは秘密とする)をさけ,密猟者や悪質なカメラマンをシャットアウトする.
・2月には繁殖行動が始まると思われるので,2月~産卵期の5月始めまでの林内への立ち入りは最小限にする.
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資料6 厚木市在住会員へのダイレクトメール

   1994年2月12日
厚木市在住の神奈川支部会員の皆様へ
             日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一

 寒中お元気にお過ごしのことと思います.
 すでに「はばたき」や新聞報道でご存知のことと思いますが,昨年,厚木市荻野の山林でオオタカの営巣が確認されました.オオタカは昨年施行された「種の保存法」の中で国内稀少鳥類にリストアップされている重要な種類ですので,ただちに支部として厚木市に申し入れを行い,生息地保全のお願いをしました.その結果,厚木市は当初予定されていた運動公園の拡張を一時凍結し,オオタカの生息調査を行い,その結果をふまえて事業の見直しをして下さることになりました.支部としては,厚木市の決断に拍手を送り,その調査についても可能な範囲で協力していくことにしました.それに関連して,付近にお住まいの方にいくつかのお願いがあり,連絡をさせて頂きました.第一のお願いは現地への立ち入りを遠慮して頂きたいということです.
 今までの経験や新聞記事などから,オオタカの営巣地を細かくご存知の方もいらっしゃると思いますが,少なくとも2月から7月の繁殖期には,公道をはずれて営巣林やその周辺に立ち入ることは控えて頂きたいのです.
 その理由は二つあります.一つはオオタカの保護のためです.
 繁殖期に不特定多数の人が営巣地に近づくことは,オオタカをいらだたせ,営巣を中断してしまう可能性があります.オオタカがいなくなってしまったのでは,せっかくの厚木市の英断が無意味になってしまいます.野鳥観察や撮影のためにオオタカがいなくなったなどと批判を受けないようぜひご協力をお願いします.
 もう一つは地元の方への配慮です.
 地権者の方々も,市の行う調査には協力して下さっていますが,新聞報道以来,無断で林に立ち入る人がふえて迷惑であるとの声も出ているそうです.今後の保全対策を考えても,地権者の方の協力は不可欠ですので,その意味でも公道を離れた山林への立ち入りはご遠慮下さい.
 第二のお願いは,厚木市内でオオタカを観察されたり,何か情報をお持ちの方は,ハガキで支部事務所までお知らせ頂きたいということです.今年の情報も重要ですし,1992年以前の記録も探していますのでよろしくお願いします.
 支部としては,調査の進行を見守りながら,オオタカの生息地の保全をはかるよう,重ねて厚木市に要望していきたいと考えています.
 厚木市在住の皆様は,市民の立場としてもいろいろな機会をとらえて,同様の要望を出して頂ければと思います.また,地元での自然保護団体を作る動きもあり,今後具体化していくようでしたら,改めてご連絡いたします.
 それでは,よろしくご協力をお願いします.
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●環境アセスメント条例の貴重種の基準について

神奈川県の環境影響評価条例(環境アセスメント条例)については,それがいわゆる事業アセスメントであって,計画アセスメントでないために,環境保全に対する実効性に疑問を持つ意見もあるが,現在実際に動いている制度であるので,それを上手にいかすように努力せねばならないし,よりよい運用を求めて意見を出していく必要もあると考えられる.
 鳥類に関して特に問題になるのは貴重種の基準であり,制度が発足して以来準拠されてきた,「神奈川県環境影響評価技術マニュアル」には,貴重種としては芦ノ湖のカモ類だけがあげられるなど,不適切な内容が多かった(資料1).
 そこで神奈川支部では,2回の鳥類目録の刊行にともなって蓄積してきた情報をもとにして,基準の改善を求める要望書を提出した(資料2).
その結果,平成6年度から適用される基準では,我々の要望が大幅に取り入れられた形に改められることになった(資料3).
新しい基準をいかして,今後も起きてくる様々な問題に意見書の提出などを行うのが我々の今後の課題といえるだろう.

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資料1 「神奈川県環境影響評価技術マニュアル」(旧版)に示された資料
15.3 動物に係わる参考資料
参考資料 15.3.1 貴重種叉は重要種の動物一覧表

動物・鳥類   
貴重種の動物 
3)渡来地             
 足柄下郡箱根町芦ノ湖の カモ類(キンクロハジロ・カルガモ・マガモ・コガモ・オシドリ等)
 重要種の動物

(1)個体及び個体群
  ヤマセミ,サギ類,ウミウ
(2)集団繁殖地
  横須賀市大楠山のサギ類
  愛甲群清川村別所地域のブッポウソウ
3)渡来地
  真鶴岬のカモ類
  平塚市及び茅ヶ崎市相模川河口のシギ・チドリ類
  小田原市酒匂川河口のシギ・チドリ類及びカモ類
  小田原市外石橋地域玉川水系河口及び海面のカモ類
  横浜市中区本牧三之谷・三渓園内のカモ類

参考資料 15.3.2 その他の主要な野生動物

鳥類 
(1)個体及び個体群
  オオタカ・ハイタカ・イヌワシ・オオアカゲラ・アカゲラ・アオゲラ・キビタキ、オオルリ・クロツグミ・カワガラス

(2)集団繁殖地
  横浜市港北区小机,足柄下郡箱根町仙石原湿原のヨシキリ類

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資料2 神奈川支部が県環境部に提出した要望書

                                                  1993年6月25日
神奈川県環境部長殿
                                日本野鳥の会神奈川支部 支部長 村上司郎

「環境影響評価条例」における貴重種の選定基準についての要望

貴職におかれましては日頃より神奈川県の環境行政に力を尽くされていることに,私ども野鳥の会会員一同感謝しております.
 さて,神奈川県では「環境影響評価条例」が全国に先駆けて制定されました.この条例に基づくいわゆる環境アセスメントにつきましては,その運用によっては,各種の開発行為に対して環境保全の面から一定の歯止めになるものと期待しております.しかしながらその評価基準の一つである貴重な動植物の選定につきましては,現在の神奈川県の自然の実状に合わない部分が認められ,早急な再検討を望むところであります.
 ここでは,私どもの会で収集した情報に基づいて,鳥類について現行の基準の問題点と新たな貴重種の案を提案したいと思いますので,よろしくご検討ください.
 なお,本件につきましては,早い機会に担当者とお会いして直接ご説明する機会を作って頂けるようお願い申し上げます.
1.現行の貴重種の問題点(「神奈川県環境影響評価技術マニュアル」による)
  ・カモ類の渡来地の評価が高いが,カモ類は都市公園のような人工的な環境でも越冬が可能な鳥類であり,他の鳥類よりも貴重とは必ずしもいえない.
  ・清川村のブッポウソウ,真鶴岬のカモ類,小田原市石橋地域のカモ類は現在では該当するような生息状況が見られないので不適切である
  ・渡来地では場所が具体的に示されている場合が多いが,この形だと同じ種類が渡来しても他の場所は重要でないという判断がされる恐れがある.あくまで種類を示し,場所は例示にすべきである.

2.貴重および重要種の候補種
    a.集団生息地

カテゴリー 鳥種 該当する場所の例

  集団繁殖地 コアジサシ : 厚木市酒井(相模川中州)、小田原市中曽根(酒匂川中州)

   サギ類 : 川崎市中原区等々力緑地公園、横須賀市長坂虫山の池
   集団飛来地 アオバト : 大磯町照ヶ崎
   シギ・チドリ類 : 川崎市多摩川河口、平塚市相模川河口、座間市新田宿
   集団ねぐら ツバメ : 相模原市磯部(相模川河川敷)
   サギ類 : 寒川町寒川神社
   ウミウ・ヒメウ : 三浦市城ケ島、横須賀市猿島

    集団越冬地 カモ類 : 箱根町芦ノ湖、相模原市相模原貯水池
    ニュウナイスズメ: 小田原市栢山付近

 b.特定種の繁殖または越冬地

  カテゴリー         鳥種

 生態系の上位にいる猛禽類 : オオタカ・サシバなどのタカ類、フクロウ・アオバズクなどのフクロウ類

           湿地性の種 : オオヨシキリ・ヨシゴイ・ミゾゴイ・ヒクイナ・タマシギ・タゲリ

 県内での分布が局限される種 : ブッポウソウ・アカショウビン・オオアカゲラ・オオジシギ・ノジコ・チゴモズ・
                    クロサギ・クロジ

     丘陵地・平地での繁殖 : オオルリ・サンコウチョウ・キビタキ・センダイムシクイ・ホトトギス・ツツドリ・ヤマセミ


資料3 「神奈川県環境影響評価技術マニュアル」(新版)に示された資料
15.3 動物に係わる資料
 15.3.1 貴重種または重要種
    貴重種または重要種の動物の判断基準は次にあげるような種とする.
 ・絶滅の恐れのある種 
 ・特産種(特に神奈川県特産種)
 ・希産種(生息数が極めて少ない種または県内でも分布地が限定されている種)
 ・分布限界種(北限,南限等の分布限界になる産地に見られる種)
 ・特殊な環境に強く依存し生息している種
 ・乱獲等のため,当該地域での個体数の著しい減少が心配される種
 15.3.2 集団生息地
 (1)集団生息地
 「鳥類」

カテゴリー  鳥種        該当する場所の例         

集団生息地 コアジサシ : 厚木市酒井(相模側中洲)、小田原市中曽根(酒匂川中洲)
        サギ類  : 川崎市中原区等々力緑地公園、横須賀市長坂虫山の池
集団飛来地 アオバト : 大磯町照ヶ崎
      シギ・チドリ類 :  川崎市多摩川河口,平塚市相模川河口、座間市新田原
   集団ねぐら ツバメ : 相模原市磯部(相模川河川敷)
          サギ類 : 寒川町寒川神社
      ウミウ・ヒメウ :  三浦市城ケ島,横須賀市猿島
 集団越冬地 カモ類 :    箱根町芦ノ湖,相模原市相模原貯水池
  ニュウナイスズメ : 小田原市栢山付近