2000年の保護研究部の活動



●コアジサシの保護活動
●逗子市名越谷戸の保護問題
●寒川町宮山のサギコロニーの保全
●横浜市の保健所でのムクドリ営巣に対する対処への指導について
●第9次鳥獣保護事業計画の基準(素案)への意見提出
●川崎市および県緑政課から依頼された調査
2000年に,神奈川支部が関わった保護研究活動について,おもに行政担当部局に提出した書類を資料として示しながら,その経緯を紹介する.

●コアジサシの保護活動
 県内のコアジサシの営巣地について情報収集と保護活動にそれぞれの地元会員を中心に継続的に取り組んだ.

・酒匂川/富士道橋下の中州で,頼ウメ子会員を中心とする本支部西湘地区コアジサシプロジェクトチームが,1996年から営巣用の人工台地を造成する試みを続けている.
 これは,大雨時のダムの放流によって巣卵や雛が流されてしまうことへの対策として始められたものである.
 1999年からは小田原市の事業として行われるようになった.
 2000年には,広さ20m×15m,高さ2mの台地が造成された.
 富士道橋付近には,約70羽が飛来し,少なくとも5羽が若鳥にまで育った.
 また,小田原市栢山の報徳橋下に,約130羽が飛来し,50羽以上が若鳥となった.

・相模川/北條文彦会員が継続的に調査を行っており,2000年には海老名市社家の相模大堰下の中州でのみ繁殖が確認された.
 この中州は,1998年から県広域水道企業団の協力によって,造成されているもので,毎年広さ5000平方メートル,海抜9mの中洲が準備されており,大規模な増水に備えて下流よりの一部に広さ150平方メートル,海抜10.2mの台地が作られている.
 2000年には,最大323羽の成鳥が確認され,117羽の若鳥が観察された.

・横浜市中区南本牧埠頭/1997年から繁殖が確認された南本牧埠頭では,2000年も管理者である横浜市港湾局の協力が得られ,約550巣が見られた.
 しかし,中途で放棄された巣が多かったようで,繁殖成功率は非常に低かった.
 その原因は不明だが,梅雨の長雨が不利な条件になった可能性がある.

・川崎市川崎区浮島地区/本地区は,多摩川沿いに沖合に延長されている埋立地で,田村俊幸会員によって2000年に初めてコアジサシの繁殖が確認された.
 繁殖行動が見られたのは,湾岸道路のサービスエリア予定地となっている台地上と,焼却灰による埋め立てが進行中の低地であった.
 最大200つがいほどが繁殖活動に入り,少なくとも20羽程度は巣立ったと推測された.
 しかし,コロニーが形成された場所が,水はけが悪い条件であったために梅雨の長雨の影響で卵が水につかって繁殖に失敗してケースが多かったようだ.
 また,低地についてはブルトーザーが出入りしており,焼却灰の搬入や整地のために繁殖が妨害されたケースもあった.

・川崎市川崎区東扇島地区/川崎市が埋め立てを行った場所で,コンテナバース,物流センターなどの建設が予定されているほか,西南端の一部は緑地公園として整備が行われている.
 本地区では1997年に初めて少数のコアジサシが飛来し,繁殖活動を行っていることが記録された.
 2000年には,コンテナバース予定地となっている100m×200mの範囲の砂礫地にコアジサシが飛来し,繁殖活動を行った.
 田村俊幸氏および多摩川河口野鳥クラブの観察によると,繁殖の開始は遅かったが,数百羽が飛来し,少なくとも100つがい程度は繁殖に成功したと考えられる.
 なお,釣り人の通行やラジコン飛行機による妨害も観察された.

 川崎市の両地区については,各種の工事が進行中なので,川崎市に対して下記の文書を提出し,繁殖環境の確保について要望を行った.
 東扇島地区については,2000年の営巣地が自動車置場として舗装される契約が締結済みであっために,浮島地区の焼却灰の埋立地の一部を営巣候補地として確保してもらうことになった.
 しかし,結果的には2001年の繁殖期には営巣個体はなかった.


資料1.川崎市に提出した要望書
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    2000年10月
川崎市長殿                  
            日本野鳥の会神奈川支部  支部長 浜口哲一

川崎市港湾部におけるコアジサシの保護について(要望)

拝啓 日頃からの自然保護行政の積極的な推進について感謝申し上げます.
さて,川崎市港湾地域において環境庁のレッドデータブックで絶滅危惧種に位置づけられているコアジサシが多数繁殖しているのが,本会や川崎市内の野鳥観察グループにより発見されました.つきましては,希少な鳥類であるコアジサシの繁殖地を確保し,その保護をはかって頂くことを要望します.
1.短期的には,来年度,再来年度の繁殖期にも営巣が可能なように,現在の場所を繁殖に適した形で残してください.
2.長期的には貴市の港湾部にコアジサシが恒久的に繁殖出来る場所を確保し,市民が野鳥に親しむことができる自然観察公園の建設について,ご検討ください.
 付記
・コアジサシの保護対策が必要な理由
 神奈川県のレッドデータ生物報告書(神奈川県立生命の星・地球博物館発行)においてもコアジサシは絶滅危惧種に位置づけられています.
 神奈川県内では,酒匂川・相模川などの大きな河川に小規模な繁殖地があるほか,横浜市の港湾地域に唯一大規模な繁殖地が残されているのみで,繁殖地の確保が特に重要な野鳥です.

・今年度の川崎市におけるコアジサシの繁殖状況
 ①浮島地区/6月の観察によると,最大200巣前後の営巣がありました.
  しかし,梅雨の長雨の影響で繁殖の成功は少なかったようです.またブルドーザーによる地形変化
  また残土・焼却灰の搬入,整地により営巣地の破壊も見られました.

 ②東扇島地区/約100巣以上の営巣が確認されており,繁殖も順調に経過した模様です.
  ただし,ラジコン飛行機が飛ぶことによる繁殖の攪乱が起こっているので,対策を講じる必要があります.

●逗子市名越谷戸の保護問題
 逗子市久木9丁目の通称「名越谷戸」は,かって釣り堀に使われていた池を中心に里山環境がよく保たれた場所である.
 宅地開発の計画があったが,さまざまな事情で事業者が断念し,市に対して土地を売却ないし税金として物納したいという意向を示した.
 そこで,市に対して下記の文書を提出し,谷戸の保全について積極的に取り組むことを要望した.
 この谷戸については,その後,市の所有地となり現状が保たれているが,具体的な保全計画は立案されていない.
 支部としては,樋口公平,窪田健両会員を中心に探鳥会を催すなどの活動を継続的に行い,地元の保護団体である「名越の史跡と自然を守る会」と連携しながら保全を訴えている.


資料2.逗子市長に提出した要望書
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平成12年7月14日
逗子市長 長島一由殿           
          日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜ロ哲一 

逗子市久木9丁目(通称名越谷戸)の保全について(要望)

 
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.
 本会は,野鳥に親しむことを通して自然環境保全に取り組んでいる市民団体で,全県で約4000名の会員を有しております.
 さて,逗子市名越9丁目,通称名越谷戸は,都市近郊としては奇跡的に開発をまぬがれた貴重な里山です.
 本会会員による三年間にわたる調査の結果,約10haという小面積の中で24科48種の野鳥が確認されました.
 その中にはオオタカ(環境庁刊日本版レツドデータブック危急種)ハイタカ(同希少種)等,生態系の頂点に立つ猛禽類も確認されており,これらのことから名越谷戸は自然度のきわめて高い地域と言えます.
 この谷戸の宅地化が計画されているとのことで,たいへん心配をしておりましたが,事業者のアーバンライフ社が開発を断念し,逗子市に売却したいとの意向を持っていると聞き及びました.
 愛知万博予定地を始め,全国的に里山環境の保全の動きが活発になっている中で,貴市におかれましても,ぜひともこの貴重な自然環境の保全に取り組んで頂きたく,下記の点を要望いたします.
1.名越谷戸の土地が他の開発会社に転売される前に,逗子市として購入や借り上げ等の対応をし,
 貴重な自然を21世紀の子供達に残せるようにして下さい.
2.市保有の池は多くの野鳥が利用していますので,今後売却や埋め立て,護岸等の工事を行わないで下さい.
3.以上の2点について,文書での回答をお願いいたします.
以上

●寒川町宮山のサギコロニーの保全
 
寒川町宮山には,本県内で最大規模のサギ類のコロニーがあり,新倉三佐雄会員が継続的に調査観察を続けている.このコロニー所在地の周辺について将来的な開発につながるような動きが生じたので,下記の文書を提出した.なお,寒川町の鳥はダイサギだが,この制定にあたっては,本会会員4名が選定委員に加わり,サギのコロニーの保全につながることを見越して,積極的に推薦した.


資料3.寒川町長宛に提出した文書
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平成12年7月15日
寒川町長殿             
          日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口 哲一

宮山のサギ類コロニーの保護対策について(要望)

 
日頃より町内の自然環境保全に努力されていることに敬意を表しております.
 さて,ご存知の通り,町内宮山にはサギ類のコロニー(集団繁殖地)があり,毎年数百羽のサギ類が巣立っております.こうしたサギ類のコロニーは都市化の進行によって存続が難しくなることが多く,近年では神奈川県内で百羽を越えるサギ類が集団で繁殖している場所は,開成町,川崎市,横須賀市などに僅かに数ヶ所を残すのみとなっております.伊勢原市においては,昨年の繁殖期間中にコロニーが作られていた山林が不法に伐採される事件があり,新聞報道で話題になりました.こうした状況の中で,特に寒川町の鳥となっているダイサギが繁殖している場所は県内で他に1ヶ所のみであり,宮山のコロニーはきわめて貴重な場所と考えられます.
 このコロニーの存続には,積極的な保護対策が必要と考えられますが,昨春,NTTドコモの携帯電話用の中継基地を隣接地に建設する計画があるという情報を得ました.この問題について,本会では事業者に対して,あまりにコロニーに近い位置であるので,賛成しかねる旨の意思表示をしたところ,事業者から候補地の再検討をする旨の回答を得ております.
 また,新幹線新駅誘致に関連して,宮山一帯で市街化調整区域から市街化区域への編入が計画されているとの情報も耳にしております.コロニーの隣接地が市街化区域に編入された場合には,住宅などの建設によって,コロニーが直接影響を受けることが懸念されるとともに,新しくできた住宅の住民から,糞や鳴き声に対する苦情が出て,結果的にコロニーの存続が難しくなる状況が起こることも心配されます.一方で,市街化区域への編入を機会に,コロニー一帯を都市公園予定地として位置づけ,コロニーをいかした水鳥公園として整備することも一つの解決案かとも思われます.
 こうした,事態をふまえ,この問題について長期的な視野にたって解決をはかるために下記のような方策をとられることをお願いいたします.
1.宮山のサギ類のコロニーの保護対策を立案するために,専門家を含めた委員会を組織し,  具体的な方策を検討してください.
2.その委員会では,市街化区域への編入問題への対処についても検討してください.

資料4.寒川町長からの回答
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寒広第10号 平成13年4月27日
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一様
                                    
       寒川町長 山田文夫

宮山のサギ類コロニーの保護対策について(回答)

平成12年7月15日付けで要望のありました標記のことにつきまして,大変遅くなりましたが,下記のとおり回答いたします.
今後とも町政に対しましてご理解とご協力の程,よろしくお願い申し上げます.
 
旧目久尻川ふるさと緑道沿いにサギのコロニーが形成され,案内のとおり町の鳥となっております.また,当該地区周辺は町内に残る貴重な自然環境が形成されている地区であるとともに,ビオトープネットワーク形成の拠点として重要な役割を担う地区でもあります.今後,人と自然との共生できるまちづくりを進めてまいります.
(事務担当は,企画部広報広聴課広報広聴担当)

●横浜市の保健所でのムクドリ営巣に対する対処への指導について
 2000年の繁殖期に,横浜市の戸塚区保健所において,戸袋へのムクドリの営巣について相談した市民に対して不適切な指導を行った事例があった.
 その情報は,2000年に把握していたが,2001年の繁殖期の前に下記の要望書を提出した.
 それに対して,保健所からはそうした指導を行ったことはないとの回答があった.
 要望書の提出まで時間をかけてしまったという支部側の不手際もあったので,こちらの趣旨が理解されていればよいと考え,事実関係についてのそれ以上の追求は行わなかった.


資料5.戸塚保健所に提出した要望
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   2001.5
横浜市戸塚区保健所所長様 
           日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一

貴保健所のムクドリの雛駆除に対する指導に対して(要望)
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.

さて,昨年,貴保健所において,ムクドリが家屋に営巣した場合に,雛の時に薬をまくようにという指導をされたことがあった旨を耳にしました(この件は複数の関係者から確認を取りました).
 このような対処は,明確に法律違反になります.
 「狩猟及鳥獣保護に関する法律」の第2条に「狩猟鳥獣の雛及び鳥類の卵は環境大臣の定むるものを除くその他の捕獲又は採取(損傷を含む)をなすことを得ず」と定められています.
 ムクドリは狩猟鳥獣で,現在環境大臣による例外規定はありません.
 以上のように,営巣し卵や雛がいる段階では薬による駆除は法律に違反することになります.
 このような場合は,営巣が開始される前の防除として,糸を吊す,CDなど光るものを吊すなどの対策をとることが重要と思います.
 また営巣した場合も,巣立ちまで○週間位などの生態情報を市民に提供する事も重要ではないでしょうか.
 具体的な鳥類の繁殖に対する知識な無いために,不安になる市民の方もいらしゃると思います.
 例えば一度巣を作ると,人間の家のように1年を通じて鳥類が生活すると誤解する方もいます.
 その上でどうしても,駆除が必要な場合は有害鳥獣駆除の申請が必要です.申請については,
 神奈川県環境農政部緑政課野生動物班が担当しています.
 本繁殖期においては,以上のことを踏まえて御指導をお願いしたく,要望をいたします.

●第9次鳥獣保護事業計画の基準(素案)への意見提出
 環境省では,平成14年度からの標記の基準のとりまとめに際し,素案を公表し,パブリックコメントとしてそれに対する意見提出の機会を設けた.
 本会が,E-mailによって提出した意見のおもな内容は下記の通りである.


資料6.環境省に対してパブリックコメントとして表明した意見     2000年11月
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①愛玩飼養について/メジロ・ホオジロの愛玩飼養目的の捕獲全面禁止を求める.
  各都道府県では愛玩飼養を認めない県もある.実態として飼養目的の捕獲は取締強化では対応出来ないと考えられる.
  また,輸入許可書の偽造等で国内産のメジロ等も違法捕獲・飼育されている実態も考えると,愛玩飼養は全面禁止の時期に来ていると考える.

 ②狩猟鳥獣の人工増殖などについて/狩猟鳥獣の人工増殖の廃止を求める.
  人工増殖により生態系内に放鳥された鳥類は,生態系内のキジ・ヤマドリと交配し遺伝子の攪乱を招くことになる.
  また,放鳥獣の全面禁止を求める.
  狩猟鳥獣の増加を図り狩猟者に便宜を図る必要性は無い.
  スポーツハンテイングは,管理地で人工物で行われるべきである.

 ③有害鳥獣駆除における関係者間の連携強化について/ 素案に示されている市町村,森林管理署,農林業団体の関係者による連絡協議会の設置についてだが,学識経験者・農林団体・狩猟団体・自然保護団体・地域住民等も含めた連絡協議会を設置することが地域の野生動物被害問題を解決する合意形成上重要だと考える.

 ④特別保護指定区域での行為制限/「集団繁殖地の保護区,希少鳥獣生息地の保護区等の
  特別保護区内においては,特別保護地域の指定を積極的に行い,法8条ノ8第5項に基づき
  施行令3条が定める必要な行為制限を指定するものとする.」と明確に表現して欲しい.

 ⑤捕獲物の処理について/捕獲物の処理については,許可に法的な効力のある条件を付すべきだと考える.

 ⑥個体数管理について/個体数管理との表現がとられているが,内容的に考えて個体群管理とすべきである.

●川崎市および県緑政課から依頼された調査
 川崎市から,2000年から2001年にかけての冬期に,市内のカラスの生態調査について委託を受けた.
 川崎市在住の約50名の会員の参加を得て,川崎市周辺の5ヶ所の集団ねぐらの集合個体数,長さ1kmの50ルートについてのゴミ集積場でのゴミ荒らしの実態調査,市域の70%にあたる地域のカラスの全数調査を実施した.
 また,県緑政課からは同時期に,オオタカの分布,カラスの集団ねぐらの個体数,ドバト・ヒヨドリなど農業被害が問題となっている種の個体数などについての調査の依頼があった.
 この調査については,(財)日本野鳥の会研究センターで受託し,支部がその実施に協力する形で行った.
 これらの調査は,2001年の繁殖期にも引き続いて実施されたので,次号でその結果をかいつまんで紹介することにしたい.