BINOS vol.27(2020)

 日本野鳥の会神奈川支部研究年報 BINOS vol.27(2020)



◆論文

八木 茂:神奈川県秦野市におけるリュウキュウサンショウクイの造巣から巣立ちまでの観察


要 約

 2020年4月7日から5月24日まで、 神奈川県秦野市の標高410mの表丹沢山中にて、 亜種リュウキュウサンショウクイの造巣から巣立ちまでを主に動画撮影を用いて観察した。巣は樹高約15mのスギの木の最上部付近に作られ、お椀型で外壁はウメノキゴケに覆われていた。ヒナは2羽で、巣立ちの瞬間を動画撮影した。造巣から巣立ちまでの時期は、沖縄県読谷村で2001年に観察された事例とほぼ同じであり、平均気温が7℃から11℃も異なるのに抱卵期間と巣内育雛期間もほぼ同じであった。リュウキュウサンショウクイの東日本での繁殖の確認は初めてであり、巣立ちの動画撮影は国内初であると考えられる。


小島香澄・高槻成紀:麻布大学キャンパス内の植栽樹への鳥類による種子散布


要 約

 被食散布型の樹木にはさまざまな果実食鳥類が訪れ、樹下には別の木で食べた種子が排泄される。しかし、野外の森林では多種の樹木が隣接している上に亜高木、低木、草本にも被食散布植物があり、林床には下生え植物や枯葉があるため落下種子を調べるのは難しい。この点、都市の単純な環境に孤立木があれば調べることが可能である。この論文では大学キャンパス内の同時期に結実する多肉果を着ける樹木を用いて、外部から持ち込まれた種子の内容を明らかにすることを目的とした。カキノキでは27種以上2,810個、センダンでは17種以上451個、エノキでは10種以上1875個の種子が回収された。対象木と同種の種子の割合はカキノキ樹下では15.6%と小さかったが、センダン樹下で52.3%、エノキ樹下では91.1%であった。外部由来の種子はカキノキとセンダンの樹下ではエノキが多く、エノキ樹下ではセンダンが多かった。大学キャンパスという単純な系を使うことで、鳥類による種子散布の実態の一部が示された。

◆観察記録

福本俊司・高田哲良:横浜市におけるマミジロノビタキの観察報告

藤井 幹・青木雄司・秋山幸也:宮ヶ瀬湖におけるミサゴが捕獲した海水魚の報告

市川恵三:魚を食べていたオオタカ幼鳥

加藤ゆき・重永明生:神奈川県西部におけるツバメチドリの観察記録

神戸宇孝・麻生千晶:神奈川県藤沢市におけるオオセッカLocustella pryeriの動画で録音した音声記録

青木雄司:八ヶ岳の森林限界付近の高標高域で確認されたヤマドリについて

青木雄司・守屋博文:北八ヶ岳産ヤマネの消化管内容物について


調査記録

今井智康・荒巻 彰:神奈川県における定線センサスの結果Ⅱ 2009~2018年のまとめ

竹内時男・竹内友香:定線センサス20年のまとめ 神奈川県開成町南部の野鳥

三瓶 昭:観音崎公園における定線センサス調査20年間のまとめ(1999年~2018年)

脇田信雄・大塚晃・大谷文江・大塚裕美:座間市芹沢公園における野鳥の定線センサス21年間の記録


◆保護記録

久米宗男:野外定着カナダガンの他地域への分散

葉山久世・加藤ゆき・篠田授樹・松本令以・久米宗男・石井 隆・池内俊雄:特定外来生物 カナダガンの生態系からの除去の活動記録


◆支部活動

2019年の神奈川支部行事


◆雑 録

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執筆者紹介 130

後 記

編集委員:赤石奈見・秋山幸也・青木雄司・荒巻 彰・今泉悠二・畠山義彦・帆保彰久・石井 隆・古南幸弘・小田谷嘉弥・佐々木麻子・渡邊謙二

英訳・英文校閲:石田スーザン

表紙イラスト:リュウキュウサンショウクイ(作画・デザイン 秋山幸也)