BINOS vol.12(2005)

BINOS vol.12 目次
<論文>
戸井田伸一・加藤ななえ:神奈川県におけるカワウのねぐらについて-2
 【要約】
 神奈川県内にあるカワウのねぐら(カワウが夜間休息する場所)の場所を把握すると共に、ねぐらの観察を行った。
 神奈川県内にあるカワウのねぐらは2001年冬には11箇所(放棄されたねぐら1箇所除く)あったが、2005年春には17箇所に増えていた。
 ねぐらを除去するために樹木の伐採と送電線の撤去が行われていたが、新しいねぐらができることにより、全体ではねぐらの数は増加している。また、ねぐらが小河川沿いにできたことから、被害場所の拡大が危惧された。
 ねぐら入り数は関東周辺の他のねぐら同様冬期に増加し夏期に減少する傾向が見られたが、津久井湖周辺等では夏場にも幼鳥を中心に増加していた。
 神奈川県内にできるねぐらは、採食地近くにつくるものと、東京内湾コロニーからの分散途中のカワウがねぐらとするところがあった。
 ねぐらの消長には、人為的な働きが大きく関わっていることから、今後、カワウの動向をモニタリングしながら知見を蓄積し、漁業被害を最小限に抑える方策を検討したい。

こまたん:京都御苑のアオバト-2004年秋~2005年春-
 【要約】
 2004年秋~2005年春にかけ,京都御苑にて越冬中と思われるアオバトの観察を実施し,次の事が明らかになった.
1.京都御苑では,アオバトのドングリ採餌場(主にアラカシ),水場,ねぐら(常緑樹群)が確認され,この地で確実に越冬している事が明らかになった.これらの環境がアオバトにとっていかに好条件で揃っているかということが,越冬地として重要な要素であると思われる.
2.アオバトの初認は11月7日の4羽,終認は5月3日の4羽,ピークは2月19日の45羽,観察1回につき確認された月別の個体数平均は3月平均値が25羽で一番高かった.
3.一度に一番多く集合した群れは2月19日の43羽であり,殆どは25羽以下の群れであった.群れ毎の状態は‘ペアでない2羽以上の組合せの群れ’で観察された確率が72%と大半を占め,単独・ペアらしき2羽などで観察されたものは少ない比率であった.
4.越冬地での食性が明らかになった.12月~4月初め頃まではドングリ(アラカシ)採餌が確認された.12月はまだ落下していなかったので樹上採餌を,年始以降は地面に落下したものを地上採餌し,一回の地上採餌で最高37個のドングリ連続丸飲みを確認した.エノキ,イチョウ,アラカシなどの新芽採餌は3月上旬から確認され主に早朝の落高木での観察であった.4月17日にはツガ花穂の採餌が確認され,一日中アオバトが相次いでツガに飛来しては採餌し,ある♀1が約10分間に357個採餌する様子を確認した.
5.ドングリ採餌場は苑内に複数存在し,今回はそのうち5箇所での採餌の様子が確認された.アオバト達は全エリアを日々回遊するというよりは,群れごとに各採餌場のドングリがなくならない限り,その周辺を中心に1日を送っているようであった.
6.3月6日を例にあげると,朝夕合計わずか10分程度で済むドングリ採餌やその他の必要最小限の動きだけで,1日のほとんどを採餌場であるアラカシ群樹上(樹冠より1m下位)のほぼ同じ位置で長時間過ごす傾向にあった.この動きの少なさが発見されにくい所以であろう.
7.群れは1日の中で集合と分散を繰り返していることがわかった.
8.ねぐらの木は1箇所に固定せず,数日間で場所を変えていると思われた.
9.期間中,いずれも複数ある日本庭園の池周辺において,アオバトの真水吸飲は6回確認されたが,塩分補給に通じる行為は1度も見られなかったことから,やはり塩分補給は夏季の採餌内容(果実)と深い関係があると思われる.
10.雨天に落高木上部にとまり積極的に雨に濡れ羽繕いなどをする‘雨浴行為’が3回,および今季は水場での‘水浴び行為’を観察されることはなかったが晴天または曇天の早朝に落高木上部にとまり‘水浴後’と思われる羽根の濡れた個体が羽繕いをする様子が3回確認された.
11.鳴声は3月8日以降から12回ほど聞かれた.3月に確認された鳴声は全て晴天の早朝で,新芽採餌が観察された時期と重複していたことから,渡りや繁殖に関係があると思われる.
12.期間中,観察スタッフ間でアオバトの食痕が6体あったことを把握した.1月9日現在でオオタカ3羽,ハイタカ1羽が苑内で確認されていた.

瀬口雄一:多様度指数を用いた鳥類種構成の解析-定線センサス調査・データ検討(第2報)-
 【要約】
 定線センサスのデータをモニタリングに活用する上で、重複度指数と多様度指数の併用の有効性が確認出来た。特に長期的なデータを比較する場合には、鳥類の構成種の変化から生息環境の変化を的確に把握できる可能性が示唆された。また、もともと個体数の多かった優占種の減少を伴う多様度指数の増加は、生態系のバランスの変化を予兆するとも考えられることから、定線センサスの結果から多様度指数を求めることは、生態系のバランスを監視するという意味で有効であると考えられた。

宇佐見閑・瀬口雄一:重複度指数を用いたデータ検討-神奈川県下の定線センサス調査結果を用いて-
 【要約】
 神奈川県下の鳥類群集は、市街地において変動が小さく、川や樹林地において変動が大きくなる可能性が、重複度指数によって示唆された。また、重複度指数の経年変化から、鳥類群集の変動の傾向を把握できる可能性が示唆された。

菊池 博:馬入橋(神奈川県平塚市)におけるハクセキレイの標識調査(2003-2004年)
 【要約】
 神奈川県平塚市の相模川にかかる馬入橋で、2003年から2004年にかけて定期的にハクセキレイの標識調査を行なった。総放鳥数は2003年が568羽、2004年が655羽で、11月から3月の間に捕獲数が多かった。馬入橋で集団塒を形成する個体群には、馬入橋付近で留鳥として生息するものと越冬あるいは渡りの途中などである期間だけ生息するものがいると考えられた。越冬する個体群が繁殖地へ渡る時期が、年齢によって異なる可能性が示唆されたが、性による違いについては明らかにできなかった。

<観察記録>
内田英樹・天羽眞吾:神奈川県におけるメジロガモの初観察記録
藤井 幹:神奈川県におけるシマセンニュウの記録
神戸宇孝:城ヶ島で観察された白色部分の多いウミスズメ類につい
田村俊幸:酒匂川上流中津川で観察されたアオシギ
藤井 幹:カワラヒワの電信柱への営巣記録
日本野鳥の会神奈川支部 神奈川県における定線センサスの結果-1999~2003年のまとめ-

<調査記録>
日本野鳥の会神奈川支部 神奈川県におけるカワウの分布状況(第6報)
日本野鳥の会神奈川支部 神奈川県におけるサギコロニーの分布状況(第1報)

<支部活動>
2004年の神奈川支部行事
2004年の保護研究部の活動

<雑録>
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執筆者紹介,後 記
編集委員:秋山幸也・石井 隆・畠山義彦・浜口哲一・藤田 薫・松田久司
編集協力:藤田 剛
英訳・英文校閲:石田スーザン
表紙イラスト:アオバト(作画・デザイン 秋山幸也)