◆論文
大磯町照ケ崎海岸におけるアオバトの幼鳥観察
こまたん
【要約】
2002年・2003年にかけて大磯町照ヶ崎海岸に飛来するアオバトの幼鳥を調査して下記のことが明らかになった.
1.野外でアオバトの幼鳥を成鳥と区別する主なポイントがわかり,さらに成長度合いに応じて幼鳥第1期と幼鳥第2期に区別できることができた.
2.成鳥の初列風切P8内弁には凹みがあるが,幼鳥には見られない.
3.2003年において,照ケ崎への幼鳥の飛来は7月中旬~11月初旬まで観察され,飛来数のピークは8月中旬~下旬であった.8/30には4時間の観察でこの年最大の169羽が記録された.
4.幼鳥第1期と比べて,幼鳥第2期の飛来のピークは10日程度遅れている.第1期は10日間程度で第2期に移行すると思われる.
5.飛来数の時間変化は6時台から7時台へと次第に増えていき,ピークは7:50~8:50で,その後は減少していくという傾向が見られた.
6.月別に見た幼鳥出現率は,7月:0.6%,8月:7.8%,9月:11.2%,10月~終認11/3:3.5%であった.全期間を通しての平均は7.1%であった.
7.小雨覆の赤褐色部の目立った換羽は巣立ち後1ヶ月以上してから行なわれると考える.
8.幼鳥第1期の見られた期間から全ての個体の繁殖期間を推定すると抱卵開始が5月中旬,巣立ちの終了が9月の中旬頃となり,この4ヶ月間がアオバト全ての個体の繁殖期間と思われる.
茅ヶ崎里山公園におけるホオジロ類の環境選好性
白田 仁志
【要約】
茅ヶ崎里山公園を利用するホオジロ類についてどのような環境を好むか,季節的な選好性の違いがあるかを1年を通して調べた.
・茅ヶ崎里山公園で確認できたホオジロ類はアオジ,ホオジロ,カシラダカの3種であった.
・ホオジロは留鳥,アオジ,カシラダカは冬鳥であった.
・ホオジロは開けた場所を好み,繁殖期は樹木がまばらに生える疎林,非繁殖期は乾田,草地を好む.
・アオジは林内,林縁の草地を好み,渡来時は湿地に集中する.
・カシラダカは湿地から草地と環境を変える.
・茅ヶ崎里山公園では3種の好む環境を備えている.
重複度指数を用いた群集解析
-定線センサス調査・データ検討(第1報)-
瀬口雄一
【要約】
定線センサスのデータをモニタリングに活用する上で,木元の重複度指数の有効性を確認出来た.特に長期的なデータを比較する場合には,鳥類群集の変化から生息環境の変化を的確に把握できる可能性が示唆された.
相模川中流域におけるカワウの飛来数について
戸井田伸一 ・石田スーザン
【要約】
相模原沈殿池で休むカワウの数を早朝から夕方まで観察した.
カワウの飛来は8時台の23.6%が最も多く,夕方15~16時台に全体の67.9%が飛去していた.
沈殿池で最もカワウの数が多くなる時間は,12時から14時台であり,補正延べ飛来数の75%程度の数となっていた.
沈殿池における最大観察数から計算した飛来数は,1998年から年々増加傾向にあり,2001には55千尾にまで増加した.しかし,その後減少し2003年には2000年以前の水準になっていた.
飛来数の多い月は11月から翌年の2月にかけての冬季であり,4月~8月の夏期に減少する傾向が見られた.
沈殿池における定点観察による飛来数の増減の傾向はラインセンサス法による神奈川支部の調査結果と同様の傾向が出ていた.
神奈川県におけるカワウのねぐらについて
戸井田 伸一・石田スーザン・安井啓子
【要約】
津久井湖(名手橋付近),磯部,下流域(寒川堰,銀河大橋下流,小出川),等々力緑地におけるねぐらについて,周年観察した.
ねぐら入り数は冬期に増加し夏期に減少する傾向が見られたが,津久井湖(名手橋付近)ねぐらでは7月と8月にも幼鳥を中心に増加していた.
相模川中流域へのカワウの飛来数が増加する時期は磯部におけるねぐら入り数が増加する時期とほぼ一致していた.
相模原沈殿池において休息するカワウは,主に磯部ねぐらに飛去していたが夏期は東京方面に飛去する割合が増えていた.また,冬期に短期間ではあるが津久井湖方面への飛去も見られた.
相模原沈殿池から東京方面へ飛去したカワウの一部が等々力緑地のねぐらに移動していたことが確認された.
相模川流域にあるねぐらは様々な攪乱を受けており,2003年春以降に津久井湖(名手橋付近)と磯部のねぐらはほとんど利用されなくなった.
今後,カワウとねぐらの動向をモニタリングすると共にカワウの行動を調べることにより,漁業被害を最小限に抑える方策を検討したい.
酒匂川におけるカワウの漁業被害対策
戸井田伸一 ・西田トミ子・山室一忠
【要約】
日本野鳥の会神奈川支部の呼びかけに応じる形で酒匂川漁業協同組合と野鳥関係者,県関係者等が共同でカワウ対策を実施し,効果を把握した.
話し合いの中で,「遡上する時期にアユの滞留する場所をカワウから保護する」目標が立てられ,共同して作成した案山子等による対策が行われた.
案山子を設置したことにより設置場所付近での採食や休息がなくなり,特定の場所をまもることができたが,カワウ飛来数自体を減らすことができなかった.
CDを吊した針金を集中的に設置するなど状況に応じて新たな対策を併用したことにより,カワウの飛来数は減少した.
従来,漁協ではカワウ対策を実施しようとすると,野鳥保護の名目で野鳥の会が妨害するという認識があった.今回のカワウ対策は,野鳥の会からの呼びかけに応じた形で漁協と共にカワウ対策を検討し,一緒に実施できたこと.さらに話し合いを通じて野鳥の会との誤解を解消すると共に,多くの助言を受け入れてカワウ対策を柔軟に実施した漁協の取り組みは高く評価される.今後カワウ対策の取り組みの良い事例となるであろう.
多摩区におけるアブラコウモリと住民との共存
和田美帆子 ・倉本 宣
【要約】
1.コウモリと共存していくにあたり,都市周辺部の住民がどの程度,コウモリの存在を認識し,身近に感じているのかを調べた.まず,多摩区において,2003年8月~9月にかけてアブラコウモリの飛翔個体の分布調査を行った.さらに,2003年12月に多摩区の住民に対して郵送法によるアンケートを行った.
2.飛翔個体分布調査により,アブラコウモリの飛翔は多摩区全域にかけて確認された.
3.アンケートにより,住民の半数以上はアブラコウモリの存在に気付いていたが、存在を認識することだけでは好意には結びつかないことがわかった.コウモリに実際に触れ,実体を知ることにより,好意を持つ可能性が高くなると考えられる.
4.コウモリと共存していくためには,住民に正確な情報を提供し,多くの人が抱いているイメージとは違う,実体を知ってもらうことが必要である.
◆観察記録
横浜市住宅街におけるツミの繁殖観察記録
小松洋
川崎市中原区内の野鳥の推移について
澤田寿子
相模川左岸の相模原市市域でのキビタキの繁殖例
旭山強・宮崎和敏
横浜市金沢区長浜公園に飛来したツルクイナ
羽鳥栄子・権守和彦・田村俊幸
アカガシラサギの夏羽個体の観察
頼ウメ子
ノビタキの越冬個体の観察
頼ウメ子
◆調査記録
神奈川県におけるカワウの分布状況(第5報)
日本野鳥の会神奈川支部
◆データベース
神奈川県における定線センサスの結果(2003年)
日本野鳥の会神奈川支部
地方分権に伴う鳥獣捕獲数の変化
日本野鳥の会神奈川支部
◆支部活動
2003年の神奈川支部行事
2003年の保護研究部の活動
◆雑録
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本会の刊行物を利用される方へ
執筆者紹介
◆後記