BINOS vol.22(2015)

 



目次

◆論文

横浜自然観察の森での21年にわたる鳥相多様性の変化
藤田 剛・柴田英美・古南幸弘・藤田 薫

要 約
 横浜自然観察の森 (観察の森) で進められてきた生息地管理や来訪者などが鳥類におよぼす影響を明らかにする第一段階として、観察の森が開園した1986年から継続して行われてきたラインセンサス法による調査のデ-タを、開園の1986年から2006年までの約20年間に注目し、解析を行った。具体的には、鳥類の記録種数の経年変化を、繁殖期 (4-6月) と越冬期 (1-2月) の2つの時期のデ-タを使い、調査コースの巡回方向や調査員のち がいなど、いわゆる観察誤差の影響もコントロ-ルした上で推定した。解析には、一般化線形混合モデルを用いた。記録された種は合計で40科95種、その内、繁殖の可能性が高くかつ神奈川県レッドデ-タブックで準絶滅危惧以上のランクに含まれる種が7種、大面積の森林を主な生息地とする種も7種含まれていた。季節移動の様式別に見ると、留鳥で繁殖の可能性が高い鳥が27種、同じく夏鳥が7種、冬鳥が28種記録されていた。解析の結果、約20年のあいだに、とくに繁殖期の種数が増加していたことが分かった。また、調査コースの巡回方向が坂を登る場合に、記録種数が大幅に増加することがわかった。これらの結果から、以下の2つの結論が導かれた。1) 観察の森での保全活動によって、とくに繁殖期の鳥の多様性が高まっている可能性がある。2) 調査方法、とくに調査コース巡回の方向が記録種数に強く影響するため、これを無視すると、種数の増減を誤って解釈する可能性がある。長期モニタリングの場合、途中で巡回方向などを変えない方が望ましい。


石川県輪島市で保護されたアオバトの体重の推移と換羽との関係
(2011年~2014年)
こまたん・畑中優美

要 約
 石川県輪島市で2005年9月18日に保護された保護アオバトの2010年8月~2015年4月までの体重の推移と2011年~2013年までの抜け落ちた羽の調査から次のことが明らかになった。

1) 体重の推移では、1年の周期の中で体重増加期(1月頃~5月頃)と体重減少期(6月頃~12月頃)がありそれが毎年繰り返された。前月よりの体重増加量の最大月は5月で+7g/月と体重増加期初期の2月(+3.3g/月)より倍増している。
2) 冬季に過ごす気温が20℃を超える場合にはその後の体重増加期の期間が長くなり体重増加も大きくなった。
3) 2011年~2014年までの各年度別体重の範囲は
 年間平均体重範囲:243g~255g(幅:12g)
 最大値範囲:251g~269g (幅:18g)
 最小値範囲:231g~245g (幅:14g)
 全期間体重推移の範囲:最小231g(2012年1月)   ~最大269g(2013年9月)(幅:38g)
 の範囲であった。
4)2年間(2011年・2012年)の年間平均体重244.4gに対して、最大26.5gの幅で増減した。これは10%を越える割合である。
5)全身換羽枚数の累計(全身1年間1月~12月累計)
    2011年:3491枚
    2012年:3619枚
    2013年:3252枚
  同じ要領で収集した前回調査、こまたん・畑中(2009)と全身換羽枚数の累計は前回値とほとんど同じであった。  
6)全身換羽重量の累計(全身1年間1月~12月累計)
    2011年:25308mg
    2012年:23137mg
    2013年:23033mg
7)年ごとに体重の推移に大きな変動があっても換羽ピーク期のタイミング(P4・P8)は年ごとにそれほど大きな変化はなかった。しかし冬の低温期がないままに高い温度を保っていた場合にはその他の次列風切羽や体羽などの換羽が遅れたことから換羽の規則性に微妙な狂いが生じた可能性が考えられる。
8)換羽ピーク期になってもその前から始まっていた体重の減少率(1カ月当たりの体重減少量)が継続され、それ以上の特段な減少は見られなかった。一方、換羽ピーク期を終えてから2カ月程度後に再び増加に転じる。渡りに備えるための体重増加は、換羽ピーク期が終了してから2カ月程度の期間をおいてからおきると考える。
9)アオバトも日長時間と体重増加には相関があり、体重増加は1月(日長時間11時間5分)から日長時間が長くなるとともに体重も同様に増加して行き5月の日長時間15時間24分に体重のピークが来ている。


大磯丘陵での一年を通じた夜明け時間帯の鳥類定点聞き取り調査
大坂英樹

要 約
 神奈川県大磯町丘陵で一年間(2014年07月~2015年06月)にわたり週毎に45週、日の出時刻の前後30分を含む夜明け時間帯に出現する鳥を定点で聞き取りまたは録音により記録し鳥相がどう変化するかを調べた。分析は鳴き声データのみ用いた。観察した鳥類は外来種を含み55種、一日平均17種が観察され、4月後半が最多の27種、9月が最少の5種が観察された。
 鳴き出しの時間帯別では
(1) 日の出時刻の30分前までに夜行性の鳥を含む平均25.4%の種が鳴き出し、
(2) 日の出を挟む1時間に47.6%の種が鳴き出し、
(3) 日の出30分以降に25.4%の鳥が鳴き出した。
 昼行性の鳥は春に種類が多く、鳴き出す鳥の種類は3分に1種の割合で増え、秋は種も少なく、鳴き出す鳥の種類は8分に1種の割合で増えた。
 昼行性の鳥の鳴き出し時間のバラツキは種毎に異なり、年間出現率が10%以上で鳴き出しバラツキの半値幅が10分以内の種は小さい順にソウシチョウ、ウグイス、シメ、ヒヨドリ、モズ、ガビチョウ、キビタキであった。これらは日の出に対して決まった時間に鳴き出すことを意味する。逆に出現率が10%以上でバラツキの半値幅が1時間超えるものにツバメ、サンコウチョウが、30分を超えるものにツグミ、オオルリ、ノスリ、イカル、ホオジロがいた。鳴き出し時間とバラツキから夜明け時間帯の鳥の行動として夜行性、昼行性のお泊り型、昼行性の来訪型と分類できる可能性を示した。


イソヒヨドリの内陸部での繁殖
 ―相模湖駅(相模原市緑区)で営巣したイソヒヨドリ―
田淵俊人

要 約
 本来は海岸に生息するイソヒヨドリが神奈川県相模原市緑区の山間地であるJR中央線相模湖駅付近において、6年間連続して営巣した。本年は1つがいが営巣、繁殖して4羽の巣立ちヒナが確認された。繁殖期の給餌に用いる餌は、ムカデ類や青虫類などの比較的大型の種類が多かった。内陸部に繁殖地域が広がっている点につき、海岸地域の方々と連携して、繁殖行動の比較調査が必要である。


南足柄東部工業団地建設によるニュウナイスズメと鳥類相の変化
頼ウメ子

要 約
1 ニュウナイスズメは1983年に初めて確認されたが工業団地建設により2005年に飛来は途絶えた。
2 環境が変化したことによりホオジロ科、ツグミ科、サギ科、ヒバリ科に大きな減少傾向が見られ、カシラダカ、ホオジロ、ツグミ、コサギ、ヒバリが大きく減少した。
3 工業団地建設によりカモ科、シジュウカラ科、ハタオリドリ科の増加が見られ、カルガモ、シジュウカラ、スズメが増加した。
4 ハクセキレイとセグロセキレイの生息数に逆転現象が見られた。建設前はセグロセキレイが周年見られたが建設後はハクセキレイが増え繁殖も確認された。



◆観察記録
加々美萌・清水海渡:オオルリCyanoptila cyanomelanaの全身の羽毛枚数
清水海渡:県立津久井湖城山公園で保護したミツユビカモメRissa tridactyla
石井 隆:横浜市港南区久良岐公園のカラス類ねぐら1年間の個体数調査
こまたん:大磯町照ヶ崎海岸で保護されたアオバトの産卵
冨岡真里子:ウシガエルを捕食したミサゴ
平田和義:三浦半島二子山におけるクマタカの観察記録

◆調査記録
日本野鳥の会神奈川支部:横浜市のカラス類の集団ねぐら調査の現況

◆支部活動(pdf.ページにリンク)
2014年の神奈川支部行事
2014年の保護研究部の活動
◆雑録
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執筆者紹介
後記

編集委員:秋山幸也・青木雄司・畠山義彦・石井 隆・古南幸弘・黒田清恵・清水海渡・渡邉謙二
英訳・英文校閲:石田スーザン
表紙イラスト:ニュウナイスズメ(作画・デザイン 秋山幸也)


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