◆論文
ヒヨドリHypsipetes amaurotisの鳴き出し時間のバラツキ比較(大磯、仙台、密陽)と鳴き出し時刻の照度推定
大坂英樹
要 約
神奈川県大磯町丘陵にて2014年07月から2016年03月までの期間、ヒヨドリの鳴き出し時間とそれに続く鳴き声の頻度を聞き取りにより求めた。鳴き声は増幅され、その音をヘッドフォンで聞きながら現地でパソコンに記録した。また自動録音も併用した。
ヒヨドリの日の出に対する鳴き出し時間は市民薄明開始時間に相関するように年2回変動した。鳴出しから日の出後90分まで、1分刻みで鳴き声の頻度を求めた。頻度は季節で変動し、繁殖期に当たる5月と6月と冬期の11月から2月は80%と高率だが、3月は約40%、7月と8月は約55%と下がった。また他の鳥にみられる鳴き出しから30分で鳴き止むということは周年を通じて無かった。
また、仙台と密陽(韓国)のヒヨドリの日の出に対する鳴き出し時間と比較した結果、大磯のヒヨドリは鳴き出しは平均も早く、バラツキも小さかった。理由として観察地が森林である大磯は、市街地の仙台、農地の密陽に対しヒヨドリの生息密度が高く、また音の増幅で可聴領域が広がったことで観察個体数の増加し、これが鳴き出しの平均を早め、バラツキを小さくすることを統計的に示した。環境要因に対する鳴き出し時間の関係を調べるにはバラツキを抑える高密度の生息場所の選定と広い可聴領域が重要である。
更に繁殖期と非繁殖期の自然環境下でのヒヨドリの鳴き出し時と天気から水平面照度を推定した。その結果、繁殖期の中でも5月~7月は18±22.7 Lx、非繁殖期で冬期の1月~2月は13.4±6.3 Lxが鳴き出し時刻の照度であった。この照度はヒヨドリが毎朝鳴くと言う行動を決める概日時計と光周性に関係すると考えられる。
神奈川県西部における過去20年の救護記録からみるオオタカの生息状況の推移
安井啓子・立脇隆文
要 約
統一的な手法によってオオタカAccipiter gentillis fujiyamaeの個体数、分布、生息環境の広域的な経年変化の知見を得るために、神奈川県西部で20年以上にわたって記録が続けられている神奈川県自然環境保全センターの救護記録を解析した。オオタカの救護個体数は1990年代から2000年頃までは徐々に増加し、その後は安定あるいは微減傾向を示した。オオタカの保護地点は、1990年代には相模川の西部に分布していたが、それ以降は相模川以東に広がり、2008-2012年代には再び相模川の西部に分布が偏る傾向が見られた。また、1993年から2012年の20年の間に、オオタカの保護地点周辺の主な土地被覆は落葉広葉樹林や針葉樹林から市街地等へと変化していた。これらの結果と、救護に影響する保護や通報の努力量の変化の考察から、神奈川県西部のオオタカ個体群は2000年頃までは増加傾向にあり東部のより市街地的な環境に分布を拡大したが、それ以降は安定あるいは微減傾向にあることが示唆された。
関東平野に越冬する猛禽類は水辺とその周囲環境をどの程度利用しているのか
和田 のどか・倉本 宣
要 約
生態系の高次捕食者である猛禽類は様々な環境を選好するが、その中でも湿地は多くの種の生息地となることが知られている。大規模な面積の湿地と猛禽類との関係はいくつか研究されているが、都市近郊にある水辺と周囲の環境が猛禽類にとって重要なものなのかどうかは明らかにされていない。そこで本研究では関東平野にある水辺とそのまわりの比較的小さな自然環境に着目し、越冬期の猛禽類がどの程度利用しているのか調査することで、人間生活域の中にある自然環境の重要性を明らかにする。
調査地は関東平野内にある5地点とした。2014年と2015年の10月~3月、8:00~16:00の間で調査地ごとに20時間ずつ調査した。猛禽類行動調査と環境調査を行い、QGISとMAXENTモデルにて解析を行った。
MAXENTモデルの結果では猛禽類にとって水域と草地の入り組み度が大きな影響を及ぼしていた。これは水域と草地が入り組んでいるほど猛禽類のエサとなる動物が侵入しやすく、猛禽類の利用が増加するためと推察される。特にノスリとトビはネズミや小鳥を採餌するため草地の入り組み度の寄与率が高く、ミサゴは魚類を採餌するため水域の入り組み度の寄与率が高くなった。以上から水域面積がある程度あり、水域や草地の入り組み度が高い場所ほど越冬期の猛禽類の利用により良い影響を及ぼすことがわかった。
確認率を用いた横浜自然観察の森における移入種ガビチョウGarrulax canorusの定着経過と囀り活動の季節変動の検証
大浦晴壽
横浜自然観察の森での野鳥確認率の中で、外来種のガビチョウに着目して過去のデータを整理した。その結果を以下に記す。
①ガビチョウは横浜自然観察の森で2010年度に増殖を開始したと推察され、約4年間を掛けその確認率を増大する事に成功した。2014年度以降にも確認率は僅かずつでも増加を継続しており、森の普通種の一つとして既に定着している事が確認率のデータからたどれた。
②この森でのガビチョウ個体数が十分に増加したと思われる2013年度から3年間の囀り確認率につき、季節毎にその数値を整理してみた。結果、数値は春≒夏>秋≫冬の順となり、囀り確認率でガビチョウの囀り活動量の季節変動が、近似的に表現できる事が判明した。
森の里C地区調整池(厚木市)におけるコガモAnas creccaの日周および各月の個体数変動
今井智康
要 約
厚木市森の里青山にある森の里C調整池において、コガモの観察を2011年より実施した。その結果、以下のことが明らかになった。
①最大羽数は、2015-2016年を除けば、概ね100羽前後で、2月にピークを示すこと が多い。神奈川県の定線調査で報告されている羽数で比較すると上位に入る羽数である。
②昼間はC調整池で主に休息・睡眠を行い、夜間に採餌のために移動する。移動の時間は、日の出前・日の出後の暗い時間帯に行われ、日の出時間が早くなるにつれて、飛来する時間が早くなり、日の入り時間が遅くなるにつれて飛び去る時間が遅くなった。また、数羽から10数羽程度のグループで飛来・飛去する傾向が認められた。
③陽射しの移動に伴い、コガモが休息・睡眠の場所を移動させている可能性が高い。
④観察数の日間変動は激しい。
⑤雌雄の性比は、エクリプスの影響がなくなると思われる年明け1月以降終認までの期間、雄の数がやや多いものの、概ね1:1の比率である。
アオバトの鳴き声の構造と個体ごとの鳴き方の違いについての解析
こまたん・畑中優美・吉村理子
要 約
神奈川県大磯町高麗山で2015年4月18日~10月10日まで野外のアオバトの鳴きの声を録音して鳴き声の解析を行った。併せて保護アオバトの鳴き声を録音して鳴き声に個体差があるのかを検討した。
1)アオバトの鳴き声にはオアオ鳴きとポポポ鳴きの二種類があるのを確認した。
調査地でのオアオ鳴きは5月2日の鳴き声初認~10月10日の最終調査日まで聞かれ、ポポポ鳴きは5月2日のオアオ鳴き初認日~8月7日まで聞かれた。
2)アオバトの標準的な鳴き声は句1~句10で構成されるソング(オアオ鳴き)であることが分かった。参考に鳴き声をカタカナ表示すると『オオゴアッゴ(句1)、オー(句2)、オー(句3)、オアオ(句4)、オアオ(句5)、アオアーオ(句6)、オーアー(句7)、アーオアオ(句8)、オアオ(句9)、オー(句10)』という鳴き声に聞こえる。
3)野外アオバトの全鳴き声の句1~句10の全鳴き声の周波数範囲(ソング内最低周波数最小値~ソング内最高周波数最大値)617Hz~1242Hz。平均値は714Hz~1066Hzであった。
4)ソング内最低周波数に該当する句は、句2で全体の96.7%が句2に集中している。
5)ソング内最高周波数に該当する句は、句6が全体の61.1%、句8が22.2%で合わせると83.3%を占めてほぼこの二つの句に集中している。
6)ソング内最低周波数が上昇するとソング内最高周波数も上昇するという相関関係にあり平均値ではソング内最低周波数713Hzに対してソング内最高周波数は1072Hzで周波数 上昇幅は359Hzであった。
7)全鳴き声の句1~句10までの各句長さの範囲は0.38~3.42秒。平均値は0.88~2.38秒であった。
8)各ソング内長さの最小値に該当する句は、句5が32.2%、句9が35.6%、句10が22.2%でこの3つで90.0%を占めている。該当する句の長さの範囲は0.38~1.07秒。
9)各ソング内長さの最大値に該当する句は、句1が36.7%、句7が45.6%の2つで82.3%を占めている。
該当する句の長さの範囲は1.76~3.42秒。
10)全鳴き声のソング長さの範囲は18.29~25.39秒。平均値は22.33±1.42秒(SD)であった。
11)保護アオバトの各句最高周波数も行徳12オスの句10の1ヶ所を除いてすべて野外アオバトの鳴き声の周波数範囲内にあった。
12)保護アオバトの各句の長さ(時間)も野外アオバトの鳴き声の長さの範囲内にあった。
13)保護アオバトの鳴き声は個体ごとに声紋の形が違うことが分かった。
14)各句最高周波数の野外アオバト全数各句の標準偏差と保護アオバト各句の標準偏差の平均値を比較すると野外アオバト全数の各句は1.9~3.9倍バラツキが大きい。
15)ソング長さの野外アオバト全数標準偏差と保護アオバト標準偏差の平均値を比較すると野外アオバト全数ソング長さは3.5倍バラツキが大きい。
16) 保護アオバト3個体は年を経ても鳴き声の最高周波数や長さの計測値のバラツキは小さく、声紋の形状変化においても大きな経年変化はなかった。
17)ソング長さと句2の最高周波数の組み合わせで作成された散布図から、ソング長さと句2の最高周波数の最大値-最小値の幅(分布の範囲)の各最大値を利用して作成された 分散範囲枠を当てはめると同一個体をおまかにクラス分けをすることが出来る。
18) 個体間の差異があること、個体間の差異よりも個体内の差異が小さいこと、個体の鳴き声は年を経ても大きくは変化しないことからアオバトの鳴き声を個体識別に使用す ることが可能である。
◆観察記録
神奈川県における真冬のハチクマの観察記録
村上久雄・秋山幸也
ユリカモメの「後退しつつ嘴をぬぐうような行動」の観察
湯川廣司
横浜市の野生化アライグマProcyon lotorの胃内容における
トラツグミZoothera daumaの検出
加藤卓也・掛下尚一郎・山﨑文晶・杉浦 奈都子
モズのはやにえを食べたシジュウカラ
黒河 監・秋山幸也
アオダイショウElaphe climacophoraによるムササビPetaurista leucogenys幼獣の捕食事例
清水 海渡・髙橋 哲也
東丹沢山麓で確認したコテングコウモリについて
青木雄司・藤田 裕
営巣中のアオゲラの穴をのぞきに来た鳥たち
山尾佳奈子、秋山幸也
◆調査記録
長野県軽井沢町におけるカナダガン捕獲までの経緯
石塚 徹
酒匂川におけるコアジサシの繁殖状況と保護活動の歩み
日本野鳥の会神奈川支部西湘地区コアジサシプロジェクトチーム 93-98
定線センサス調査地引継ぎ前後の観察種・数の変化の有無について
今井智康
◆講演記録
多摩川河口の自然を考えるシンポジウム 2015の記録
日本野鳥の会神奈川支部
◆支部活動
2015年の神奈川支部行事
2015年の保護研究部の活動
訂正記事
◆雑録
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執筆者紹介
後記
編集委員:秋山幸也・青木雄司・畠山義彦・石井 隆・古南幸弘・黒田清恵・小田谷嘉弥・清水海渡・渡邉謙二
英訳・英文校閲:石田スーザン