日本野鳥の会神奈川支部研究年報 BINOS 第25集



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【論文】
こまたん:大磯町高麗山におけるタイマー録音によるアオバトの鳴き声調査
-鳴き声回数の季節推移と幼鳥のオアオ鳴きについての考察-
◆要約
 アオバトの海水吸飲地照ヶ崎海岸から北へ2km ほどの標高60m程の高麗山中腹で2017 年4月30日~11月20日の間の199日間、ICレコーダのタイマー録音機能を用いて、アオバトの鳴き声を日の出30分前~日の出後5時間の計5時間30分間録音した。風雨による騒音で録音内容を確認できなかった21日分を除いた178日分の中で、アオバトの鳴き声が記録された164日分の鳴き声の頻度や幼鳥の鳴き声の解析を行った。

1)調査期間178日を通してオアオ鳴きは合計15209回。1日あたり平均85回であった。
2)調査期間を通して鳴き声回数は5月後半と8月中旬にピークを持ち、その間で減少・増加、2回目のピーク 後の減少がみられた。
3)鳴き声回数、晴れの日の方が曇りや雨の日よりも多かったが、調査期間を通しての減少・増加の仕方は同傾向であった。
4)鳴き出し時刻はもっとも早かったのは9月11日の日の出24分前で、飛来数の少ない5月前半と11月を除いて、晴れの日の平均鳴き出し時刻は日の出7分前、曇り・雨の日の平均鳴き出し時刻は日の出11分後であった。
5)1日の鳴き声回数は日の出後2時間以降に増加し、4時間以降で減少する傾向が見られた。
6)ポポポ鳴きがよく聞かれた時期は期間中に3回あった。
7)9月初旬までは照ヶ崎への飛来羽数とオアオ鳴き回数の増減傾向はよく似ていた。8月下旬以降では飛来羽数は9月11日付近まで多い日が続いていたが、オアオ鳴き回数は8月25日以降で明確に減少傾向にあった。
8)オアオ鳴きは、標準的な鳴き声と異なる特徴を持ったタイプ1~3まで、計4つに分類できた。
9)標準的鳴き声は記録した全回数15209回の内99.07%を占めた。
10)タイプ1は全体の音程が大きく外れて最も苦しそうで濁った声で、句10まで完結しない鳴き声。全回数の0.22%。
11)タイプ2はタイプ1に対して句10まで完結し、全10句のうち4~7割以上の句で、音程が外れて苦しい声であるが、濁りはない鳴き声。全回数の0.26%。
12)タイプ3は全10句のうち3割以下の句が音程が外れて苦しい声であり、それ以外には標準的な鳴き声と違いは見られない鳴き声。全回数の0.45%。
13)タイプ1は7月後半より記録され、照ヶ崎における幼鳥の出現時期と重なった。鳴き声が極めて不完全であることを合わせて、当年生まれの幼鳥の鳴き声だと考えられる。
14)タイプ2は5月31日より記録され当年生まれの幼鳥ではないことが推測される。鳴き声が不完全であることと合わせて、前年生まれの個体の鳴き声の可能性がある。
15)タイプ3は前年生まれのタイプ2がその年(2年目)初夏から順次成長して、秋にはすべて標準的な鳴き声に移行した可能性がある。
16)タイプ1の声を当年生まれの幼鳥が出している場合、全ての個体が当年内に鳴くわけでは無く、一部だけが不完全に鳴くものと考えられる。
17)前年生まれの個体の鳴き声の可能性があるタイプ2,3は、照ヶ崎へのアオバト飛来数に伴って増加するが、2タイプの合計の割合は最大でも鳴き声全体の1.2%に過ぎなかった。前年生まれの個体はごく一部だけが鳴くのか、多くが飛来当初から標準的な鳴き声になっているのかいずれかの可能性がある。


田淵俊人:神奈川県相模原市緑区・内郷地区に生息する野鳥
―2010年から2018年までの記録
◆要約
 2010年6月から2018年7月までの8年間に渡り、 神奈川県相模原市緑区寸沢嵐の内郷地区(旧、津久井郡相模湖町) に出現した鳥類についてラインセンサス法を用いて総合計195回の調査を行い、観察された種、 個体数、繁殖の有無について1999年と2010年のデータと比較を行った。結果は以下のように要約される。

1 2010年 7月から2018年 6月までに77種の鳥類を確認した。1999~2018年までに本調査地域では総合計 111種(帰化鳥3種とドバトの合計4種含む、これらを除くと合計107種)が観察されたことになる。 
2 調査地区において観察種数が多かった季節は、4~5月までの夏鳥の渡りの季節(60種)と冬季のカモ類が増える11月から翌年1月まで(55種)で6~9月までの夏から初秋では40種であった。 
3 月別における個体数が最も多かったのは、9~12月と翌年2月にかけてで、調査 1 回あたりの平均出現個体数は450羽 から850羽、次いで6月の350羽であった。この結果は1999 年から2000 年までの結果まで回復したが、個体数の増加に影響するオシドリやイワツバメの個体数が増加したこと、イカルの個体数が増加したことと関係がある。
4 調査地域において繁殖を確認したか、あるいは繁殖の可能性のある鳥類は50種(帰化鳥のガビチョウとドバトを除く)で、前回調査の52種とほぼ一致した。
5 1999年以来、新たに確認された種はイソヒヨドリとコムクドリの2種であった。ヤブサメ、ツミは観察されず夏や秋の渡りの季節における野鳥の種数も減少した。その一方でミゾゴイ、フクロウ、ヤマセミなどが確認された。
6 水辺を生息域とするカワウとイソヒヨドリの繁殖は本調査地域では初記録である。
7 本調査地域は相模川と道志川の合流部にあたり、また高尾山と丹沢山地に囲まれた地理的にも複雑な場所である。今後は、河川と森林が入り混じった当地の野鳥のその動向をさらに重点的に調べるとともに、データの少ない相模原市緑区の野鳥の動向を知る基礎的資料になるよう継続的な調査を心掛ける予定である。



山本知紗・倉本宣:木もれびの森の成長と森に対する近隣住民の意識の変化

◆要約

 神奈川県相模原市に位置する73haの緑地、木もれびの森において、木もれびの森と森に関わる人々の変化を森側の調査と人側の調査の結果を統合することで明らかにし、新たな人と森の関わり方について述べることを目的とし調査を行った。森側の調査より、手入れが行われている区域では手入れが行われていない区域と比較して草本層、亜高木層の植被率が高く、低木層の植被率が低い結果となった。人側の調査のうち聞き取りより、相模原台地上の雑木林において第二次世界大戦以前は伐採、下刈り、落ち葉かきが行われていたこと、第二次世界大戦以前後になると開墾が行われ、残った雑木林では下刈りは行われていたこと、高度経済成長期には森に人の手が入らなくなったこと、2000年前後からは伐採や道の整備が行われていることが聞かれた。アンケートからは木もれびの森は一部の近隣住民によって日常的に利用されていること、森の植生変化に気づいている利用者は少なく、森を残すために主体的に動くという意識はないことがわかった。
 時代とともに森と人との関わりは変わり、森の様子も変化してきた。利用者のほとんどが近隣住民であり利用頻度も高い木もれびの森において利用者が森について理解や関わりを深め、管理の一部に参加し、木もれびの森の良好な自然を維持していくことが望ましいと考えられる。

【観察記録】
加藤ゆき:神奈川県真鶴町におけるクロサギEgretta sacra の幼鳥の観察記録
今井智康:仏果山におけるアオバトTreron sieboldii の鳴き声観察記録
畠山義彦:シマヘビによるヤマガラのヒナの捕食行動
秋山幸也:繁殖した巣をねぐらに越冬したツバメの記録
今井智康:あつぎつつじの丘公園周辺におけるカモ類の観察記録
青木雄司・清水海渡:北八ヶ岳の亜高山帯で確認されたヒナコウモリとクビワコウモリについて

【調査記録】
奥津敏郎:横浜野島水路のシギ・チドリ -10年間の調査結果と観察記録-

【支部活動】
2017年の神奈川支部行事
2017年の保護研究部の活動

【雑録】
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 執筆者紹介

編集委員:秋山幸也・青木雄司・畠山義彦・石井 隆・黒田清恵・小田谷嘉弥・清水海渡
・渡邊謙二
英訳・英文校閲:石田スーザン
表紙イラスト:ツバメ(作画・デザイン 秋山幸也)