日本野鳥の会神奈川支部研究年報 BINOS vol.26



◆論文

こまたん・吉村理子:行徳野鳥観察舎に保護されている幼鳥アオバトのタイマー録音による鳴き声調査-初めての繁殖期を迎えた前年生まれの個体の鳴き声-

要約

 千葉県市川市にある行徳野鳥観察舎に保護されている幼鳥アオバト(調査開始時は孵化後1年未満)の鳴き声調査をおこなった。調査はICレコーダーのタイマー録音機能を利用して録音し、アオバトが初めての繁殖期を迎えた個体(前年生まれ)の鳴き声の回数や鳴き方の変化を解析した。

1)アオバトの生まれた翌年の鳴き始め頃の鳴き声は、鳴き始め頃の中でもごく初期は各句最高周波数が低く、それ以降は周波数は標準的な高さになるものの、安定しない未完成なものであると考えられる。また、句の長さについては声の高さほど明らかな違いは無いようである。
   これは、鳴き始めの頃は音の高さをコントロールする能力がまだ未発達であると考えられる。句の長さにつての微妙な調整は早い段階からでき、その後、音の高さをコントロールする能力が徐々に発達し、各句の詳細な部分(声紋の形)が整って標準的な鳴き声になっていくようである。

2)アオバトは孵化1年後程度ですべての個体が不安定ながらも標準的な鳴き声に移行すると考えられる。

3)野外での鳴き声回数の1回目のピークの山に参加している鳴き声は、行徳17メスの句10までが揃うオアオ鳴きが始まらない時期であり、成鳥の個体群が主であると考えられる。

4)行徳17メスのオアオ鳴きが増加した時期は6月28日の谷を過ぎてからであり、こまたん(2018)で推定した「前年生まれの個体群は6月28日以降に頻繁に鳴くようになりながら標準的な鳴き声になっていく」こととよく合った。

5)非鳴禽類であるハト目は鳴き声のレパートリーを持たずある定まった鳴き声だけである。その完成によって番相手を得るための一つの条件が整ったと言えるかも知れないが、求愛時に用いられるポポポ鳴きを2年目は行わなかったことと合わせると、生後2年目の個体は繁殖に参加していない可能性が考えられる。調査期間中で標準的な鳴き声になるまでの推移で、句10までが揃った(=標準的な)鳴き声の時期は7月20日~8月21日であった。標準的な鳴き声とは言えるものの句1やソング長さ等、まだ安定していない鳴き声だった。

6)飼育かつ非繁殖個体である行徳17メス(前年生まれの個体)も野生のアオバトと同じような鳴き声の季節周期を示したことは、鳴き声に関するホルモンの分泌状況も同様の季節周期だったと思われる。これは、鳴き始めの頃は音の高さをコントロールする能力がまだ未発達であると考えられる。句の長さについての微妙な調整は早い段階からでき、その後、音の高さをコントロールする能力が徐々に発達し、各句の詳細な部分(声紋の形)が整って標準的な鳴き声になっていくようである。


こまたん:多摩動物公園におけるアオバトのタイマー録音による鳴き声調査
  - 飼育下における鳴き声の季節推移とその機能についての考察-

要約

 多摩動物公園野生生物保全センターで飼育されているオス1羽、メス2羽の計3羽の飼育下のアオバトの繁殖期における鳴き声をICレコーダーのタイマー録音機能を利用し録音した記録から分かったことを報告する。

1)繁殖の欲求が高まっていく2週間ほどは頻繁に鳴くが、その欲求も徐々に薄れてピーク後56日間(8週間)程度でほとんど鳴かなくなったと考えられる。日長時間の変化による季節周期と既日リズムに従って鳴いていたことがわかった。

2)1日に鳴いたオアオ鳴きの最大鳴き声回数(ピーク)でさえ僅か8回であることは、よく鳴く他の鳥とは鳴き声の機能が違う可能性がわかった。

3)3個体が全期間を通じて鳴いた95日で、朝最初に鳴いた個体は、L0686(オス)が83回で87%と突出している。1日(日の出前~日の入り頃)の連続録音した結果ではL0686(オス)の鳴くピークが早朝(日の出前)と夕方にあり、昼間はL0685(メス)の比率が高くなっている。このことからオスは早朝と夕方に、メスは昼間に鳴く欲求が高まるといえる。これはアオバトの営巣中のオス、メスの分業形態(オスは昼間に抱卵育雛を、メスは夜間に抱卵育雛を担当)により、巣の外にいる時間帯に鳴く欲求が高まると考えられる。野外の繁殖調査(こまたん 2003)において、親鳥が巣の中で鳴いたことが無かったことと一致する。

4)今回の分析では降雨の有無や晴れ曇りによる照度の違いは考慮しなかったが、少なくとも鳴き声の回数推移や鳴き出し時刻には一定の傾向が見られたことから、影響は小さいことがわかった。

5)L0686(オス)は、今まではL0685(メス)の鳴き声に反応は見られなかったが野生のアオバトの鳴き声に対して1分以内で鳴いた。また、7月中頃以降は次第に鳴く回数が減少して、朝の5時間で多くても3回以下の時期にこの日の朝は5回鳴き、2日後も5回鳴いた、そしてその後は回数を減らした。
     これらのことから、一般的に鳴き声には求愛の機能があるとされているが、求愛など一定の興奮を引き起こす要因となっている可能性もわかった。

6)調査期間を通した鳴き声の中で、唯一野生のアオバトと鳴き交わした際の鳴き声は、各句の周波数範囲の中に納まっていて、特異な鳴き声ではなかった。鳴禽類と異なり、個体が持っている固有の鳴き声はやはり一つだった。これは、アオバトは一つの鳴き声で複数の意味を持たせているのか、あるいは鳴き声以外の方法によって必要な情報を交換していることがわかった。

7)オアオ鳴きの中に句10以降続けて鳴く(追加タイプ)ものがあった。追加タイプの個体はL0686(オス)で孵化後8 年以上とも考えられる個体でオアオ鳴き151回のうち8回(5.3%)あった。他の2個体については追加・復唱することは無かった。追加・復唱する鳴き方は性別には関係なく歳をとったアオバトがたまに発声するものであると言える。


渡部克哉・篠原由紀子・石塚康彦・上原明子・篠塚 理・藤田 薫:横浜自然観察の森での自動撮影カメラによる動物の10年間の変化と日周活動

要約  

 横浜自然観察の森で実施しているモニタリングサイト1000里地調査の「中・大型哺乳類調査」の、2008年から2017年までに取得した自動撮影カメラによるデータを用いて、各動物の撮影個体数の10年間の経年変化、および日周活動について解析した。

1 哺乳類は、在来種は3種(多い順に、タヌキ、ニホンノウサギ、ニホンイタチ)と1属ネズミ類(アカネズミかヒメネズミ)、外来種は3種(タイワンリス、アライグマ、ハクビシン)、その他2種(ネコ、イヌ)、鳥類の在来種はカラス類と、少数ずつ撮影された13種、外来鳥類は2種(コジュケイ、ガビチョウ)が撮影された。

2 10年間で減少傾向を示したのはニホンノウサギ(減少率約30%)、タイワンリス(約20%)、ハクビシン(約10%)、アライグマ(捕獲開始前は約10%、開始後は約20%)、増加傾向を示したのはタヌキ(増加率約20%)、ネズミ類(約15%)、ネコ(約15%)、ガビチョウ(約70%)であった。

3 増減の傾向が全国と同じ種は、減少傾向にあるニホンノウサギ、増加傾向にあるタヌキとガビチョウであり、コジュケイはどちらでも経年変化は検出されず、ハクビシンとアライグマは、全国では増加しているが、観察の森では減少していた。

4 日周活動は、タヌキ、ネズミ類、ハクビシン、アライグマが夜行性(夜間撮影の割合90%以上)、タイワンリス、コジュケイ、ガビチョウが昼行性(日中撮影の割合約100%)を示し、ニホンノウサギとネコは昼間も夜間も活動している(夜間撮影の割合約50%)ことが示された。


畠山義彦:巣箱におけるシジュウカラの繁殖行動の観察

要約

 巣箱内に赤外線カメラを設置した巣箱観察システムを用いて、シジュウカラの営巣時における行動を観察した。営巣期間は巣作り開始の3月16日から巣立ちの5月8日まで54日間であった。
抱卵時間と雨量、湿度、日射量の間には相関関係が見られ、雨の日には抱卵時間が短かった。雨量が多い日は食料調達が困難であり、親鳥♀自身の採食時間の確保が必要なため、抱卵時間が短くなったと推測される。
巣内育雛期間においては雨の日は雛への与食回数が減り、雨が雛の成長に影響を与えていることがわかった。また1日の与食回数は与食開始から5日目までは増加傾向にあったがそれ以降は減少している。しかし雛の体長は増加していっている。これは親鳥が1回に運んでくる虫の大きさが最初は小さかったが、次第に大きい虫へと変わっていき、与食回数は少なくなっても食べ物の総量は増えていっているからと考えられる。
巣内育雛期間において雛の羽毛が一定レベル以上に達して抱雛が必要ないと考えられる日でも夜間の抱雛が観察された。これは当日雨が降り、濡れた親鳥から与食を受けた雛も濡れ、雛の身体に付着した水滴の蒸発により気化熱を奪われ、体温低下を招き雛が衰弱する可能性があり、これを防ぐために抱雛が行われると推測する。



◆観察記録

小田谷嘉弥・宮脇佳郎:三浦半島沖におけるアシナガウミツバメの神奈川県初記録

宮地知之・藤原幸子・萩藤有紀・加藤ゆき・槇埜正治:神奈川県立境川遊水地公園におけるシベリアジュリンEmberiza pallasiの観察記録

加藤ゆき・秋山幸也・重永明生:小田原市早川漁港におけるコクガン幼鳥個体の観察記録

秋山幸也:酒匂川におけるショウドウツバメの厳冬期の記録

味埜真理・清水海渡・青木雄司:秦野市桜町で発見されたユビナガコウモリについて

佐藤道夫・金子典芳:神奈川県大磯町の花水川土手におけるキガシラシトドの観察報告

牧野田節子:神奈川県大磯町高麗山におけるコウライウグイスの観察記録

青木雄司:北八ヶ岳の森林限界付近の高標高域で確認されたハクビシンについて

◆調査記録

青木雄司・秋山幸也・藤井幹:宮ヶ瀬湖における水鳥の調査結果について

頼ウメ子:酒匂川におけるカワアイサの消長

後藤裕子・瀧島輝夫・宮崎精励・守屋武二:津久井湖城山公園の野鳥 2012~2018年の野鳥調査記録から読み取れたこと

◆支部活動
2018年の神奈川支部行事
2018年の保護研究部の活動

◆雑録
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執筆者紹介
後記

編集委員:秋山幸也・青木雄司・畠山義彦・石井 隆・古南幸弘・小田谷嘉弥・渡邊謙二
英訳・英文校閲:石田スーザン
表紙イラスト:コクガン(作画・デザイン 秋山幸也)