BINOS vol.8(2001)
◆論文
こまたん
カラスの集団ねぐらへの飛翔について
畠山義彦
横浜自然観察の森における繁殖期の鳥類相の11年間の変化
東陽一・古南幸弘・大屋親雄
◆観察記録
屋敷林に作られた集団繁殖地におけるサギ類の観察記録(第1報)
-1986~1994年の観察-:新倉三佐雄
境川中流におけるカワセミの繁殖
-巣造りから子育てまで80日間の連続観察-
井美昭一郎・今井宗丸
イソヒヨドリにおける砂熱浴の観察:鈴木茂也
食痕から調査したオオタカの食性:森要
津久井町又野地区のカラスの集団ねぐらについて:田淵俊人
小田原市栢山におけるツバメ類の巣調べ:竹内友香・竹内時男
神奈川県における防鳥ネットの使用に伴う鳥類の被害状況:藤井幹
横浜市寺家町の野鳥:高田哲良
◆調査記録
日本野鳥の会神奈川支部:神奈川県におけるカワウの分布状況(第2報)
日本野鳥の会神奈川支部:神奈川県における定線センサスの結果(2000年)
日本野鳥の会神奈川支部:神奈川県におけるカラス類の集団ねぐらの変遷
日本野鳥の会神奈川支部鳥類目録編集委員会:神奈川県内における鳥類の写真記録6
◆支部活動
雑録
平塚市吉沢周辺の丘陵地における秋期の鳥類相と個体数変化
こまたん
【要約】
平塚・大磯西部丘陵における秋の渡りの鳥達の動きについて2000年9月23日から11月4日迄の間,調査地域全域を網羅するように設けた合計12.9kmのコースを6つに分けて7回の一斉ラインセンサス調査を行った結果,下記のことが明らかになった.
1.記録された鳥類は25科54種で,留鳥32種,夏鳥8種,冬鳥11種,旅鳥3種であった.
2.総記録個体数は10,128羽で,留鳥95.4%,夏鳥2.7%,冬鳥1.8%,旅鳥0.1%であった.
3.出現率では54種の内50%以上は27種,そのうち100%が21種で,この時期本地域では多くの
種類が高い確率で観察出来ることがわかった.
4.種類全体の個体数変化は,9月下旬に比べ一旦10月後半で2倍以上に増加し,その後
減少したが9月下旬よりは多かった.種類全体としての移動のピークは10月後半であった.
5.留鳥の個体数変化も種類全体と同様の変化を示したが,ヒヨドリではその増減が顕著に現れ
季節的な移動個体がある事がわかった.またエナガやシジュウカラは群に出会うか出会わないか
の差によるバラツキが目立った.スズメとムクドリは畑地や民家のある開けた土地でのみ記録され,
森の中にはいなかった.
6.エナガは従来の観察報告では日によって観察されないこともあったが,今回の一斉調査により
必ずどこかで観察出来ることがわかった.
7.夏鳥の個体数変化では,アオバトが9月末,キビタキが10月下旬,ツバメは9月23日以前に
ピークがあり,種による渡去時期のズレがわかった.
8.冬鳥は10月下旬より急激に増加し,渡来の始まりは確認できたが,そのピークは調査最終日
の11月4日以降の可能性がある.
9.キビタキは10月下旬の渡りのピークにおいて,川沿いの森の中よりも尾根沿いの森の中をよく
使うことがわかった.
10.本地域には様々な鳥達が,その生息地として住み,また渡り鳥はその移動先あるいは移動の
中継地として訪れていることがわかった.
カラスの集団ねぐらへの飛翔について
畠山義彦
【要約】
1.小田原市小竹上空を大磯町虫窪のねぐらに向けて飛翔するカラスの数を,2000年12月から
2001年3月にかけて調査した.
2.足柄平野から曽我丘陵を越え,小竹上空を通過し虫窪のねぐらに向かうカラスのルートには,
3つのルートの存在が確認された.いずれのコースも曽我丘陵の鞍部を通過していることから,
カラスは飛翔するための運動エネルギーの消費を少なくするため,標高の低い丘陵の鞍部を
選び通過したと推定される.
3.この3つのルートのカラスの飛翔数が時期により変化することが確認された.
このことは採餌場所の餌の量の変化とカラスが採餌場所の情報を交換しているものと推定される.
4.曽我丘陵方面より虫窪のねぐらに向かうカラスの飛翔数は次第に減少し,3月下旬には0羽と
なった.
このことは繁殖期に入った成鳥がねぐら入りをしなくなったと考えられる.
しかし繁殖期以降,虫窪のねぐらでは別の方面から飛来するカラスが確認された.
曽我丘陵方面へ出向いたカラスの中には繁殖しない若鳥などがいたが,これらのカラスは
繁殖期に入ると,別の方面の採餌場所へ出向くようになったと推定される.
5.曽我丘陵方面から中継地点を経由して虫窪のねぐらへ向かう3つのルートの飛翔数の変化が,
近接する日では総数がほとんど変化しないこと,また3つのルートの中で増減が見られることが
確認された.このことより餌が豊富な採餌場所はどこかといった情報交換はカラスの場合,ねぐら
ではなく中継地点で行われていると推定される.
6.ねぐらに向けて飛翔するカラスの数はねぐらより3kmほど離れた地点では,300ルクス以下の照度
となる黄昏時に集中し,0ルクスに近い状態になる前にはその飛翔を終えることが確認された.
このことよりカラスのねぐらへの航法は,陸標を頼りにした地文航法であると推定される.
7..ねぐらに向かうカラスの飛翔する照度の分布をみると,風の強い日には明るいときに飛翔数が
多く,風が弱い日は照度が低いときに飛翔数が多いことが確認された.このことより,カラスの
ねぐらへの飛翔を妨げる要因として風があり,風の強い日には身の安全のため,早めにねぐら
へ向かうと推定される.
横浜自然観察の森における繁殖期の鳥類相の11年間の変化
東陽一・古南幸弘・大屋親雄
【要約】
1.横浜市南部の丘陵地に位置する横浜自然観察の森において1986年から1996年に
かけてラインセンサス法により繁殖期の鳥類の個体数調査を行なった.
その結果から個体数の変化を解析し,変化の要因について考察した.
2.調査では26科40種を記録した.個体数が増加した種はヤマガラであった.
巣箱の架設が影響している可能性があるが,シジュウカラの個体数は増加していないので,
巣箱の架設が増加の要因であるとは断言できない.
3.個体数が減少した種はキジバト,ツバメ,ウグイス,ホオジロ,カワラヒワであった.
ウグイス,ホオジロは,植生構造の変化が減少の要因ではないかと推測される.
キジバト,ツバメ,カワラヒワの減少の原因は不明である.
屋敷林に作られた集団繁殖地におけるサギ類の観察記録(第1報)
新倉三佐雄
-1986~1994年の観察-
【要約】
1986年から観察を続けてきた,神奈川県高座郡寒川町に形成されたサギ類のコロニーについて,下記の項目について観察結果を報告した.
繁殖が記録された種と繁殖期間の概要
コロニーへ集まり始める時期・婚姻色・求愛行動・鳴き声・巣材運び・どこから巣材を集めるか・
巣材盗賊行為・造巣中の巣に近づいた個体を追い出す行動・巣作り・交尾・産卵・卵数・
卵の色と大きさ・抱卵・抱卵の交代・抱卵の放棄・抱卵中の行動・雛がかえる時期・雛の数・
抱雛・抱雛中の行動・暑さから卵や雛を守る行動・産卵から抱雛後までの継続観察・給餌・
雛への威嚇行動・巣から落ちた雛・雛の死・巣から出る・雛の羽ばたき行動・
コロニーの外への移動・巣の再使用・高木での繁殖活動・傷ついた個体の繁殖・
イサギの雛の行動・繁殖期の成鳥の体色・雛の体色・サギ類の個体数・
ゴイサギの行動の天候による変化・ゴイサギの日光浴・サギ類が警戒するもの・
サギ類の羽ばたきの音・チュウサギの出現・ダイサギの出現と個体数・アオサギの出現・
繁殖活動の終息・ねぐらとしての利用
境川中流におけるカワセミの繁殖
井美昭一郎・今井宗丸
-巣造りから子育てまで80日間の連続観察-
【要約】
巣造り開始前後の2001年3月16日より,巣立ち後の6月3日までのカワセミの生態を,連日80日間にわたって観察した結果,次のことがわかった.
1.求愛給餌,求愛飛翔,巣造りなどの求愛期から約2週間後に,産卵,抱卵が始まると考えられる.
2.抱卵は雌雄が交替でおこなった.各々の抱卵時間はほとんど同じで,平均2時間28分であった.
夜間は雌のみが抱卵したと思われる.抱卵中は,つがいの相手に一度も給餌しなかった.
3.孵化までの期間は20日,育雛期間は25日または26日であった.
4.給餌回数は,早朝3時間の観察によると,育雛期の前半では7~10回,後半では7~14回であった.
5.給餌間隔は,10数分から30分,平均18分であった.
6.餌の大きさは,孵化後数日は1~1.5cm,1週間後は約2~3cm,15日目には約5cmとなり,雛の
成長に合わせて急速に魚が大きくなることがわかった.
7.雛の餌は小魚で,種類は確定できないが,コイかオイカワの稚魚と思われる.
8.餌運びは,雌雄共行ったが,雄が主力でその回数は雌の2倍以上であった.
9.孵化から25日目に3羽,26日目に1羽.計4羽が巣立った.巣立ちは,天候に関係なく,主と
して早朝に行われた.
10.巣外で子育て中の親鳥は,くわえた餌を直ぐには与えず,幼鳥に後について飛んでくるように
仕向けていた.また水に飛び込まない幼鳥を嘴で突き落として飛び込みを強いていた.
11.巣立つた幼鳥達は,巣立ち後9日目から下流に移動し,11日目からは全く行方が分からなく
なった.
12.巣穴の再利用は,行われなかった.
イソヒヨドリにおける砂熱浴の観察
鈴木茂也
繁殖期のイソヒヨドリが熱を浴びていると考えられる行動を観察したので報告する.
この行動は太陽光線によって熱くなった砂浜を利用し行なわれたものである.
3回行なった観察において,ほぼ同じ行動を確認した.熱くなった砂の上におりて,腹這いになり翼と尾羽を開いて体の下面を砂に密着させる.
頭部や腰の羽毛を立てて,短い時には2秒程度,長い時には28秒程度静止した.
この時に首を上に向けて喉を砂に着けない場合と,喉まで砂に密着させる場合とがあった.
また,砂の上に腹這いになりながら首を上げ,足による頭掻きを行なうこともあった.
岩や樹上での同じような動作は見られず,キジやスズメが行なう砂浴びのように体を震わせて羽毛に砂をまぶす動作も見られなかった.
食痕から調査したオオタカの食性
森要
【要約】
藤沢市北部でオオタカの食痕について観察した.
2年にまたがる調査で確認できた食痕は,合計22種,204例であった.
食痕は鳥以外は発見しづらいこともあり,本地域でも2例を除いて全て鳥であった.
森林性ではないドバト,ムクドリ等の羽が林内にあることから,オオタカは周囲の畑地でも狩をし,林床へ運んで解体していると推定された.
食痕が発見された植生についてみると,混交林と竹林については,面積からの期待値とほぼ同じ割合で食痕が発見されたが,針葉樹林では期待値より多く発見され,広葉樹林では逆に少なかった.
このことは地上の見通しを悪くする下草が多い林を,オオタカは鳥の解体場所として好まないためと思われる.
津久井町又野地区のカラスの集団ねぐらについて
田淵俊人
【要約】
1999年1月から2000年2月までと,2000年12月から2001年2月までの冬期間,神奈川県津久井郡津久井町又野周辺におけるカラスのねぐらの位置,個体数などについて調べた.
結果は以下のように要約される.
1.ねぐらが確認された場所は,津久井郡津久井町の又野地区であった.
この地域は相模川に道志川が合流する付近の丘陵地帯の一角であり,ねぐら付近の環境は,
主にクヌギやコナラなどからなる二次林で,民家と畑に隣接していた.
2.調査1回当たりの平均個体数は716羽であった.
1999年12月11日と,2001年1月5日には約1000羽前後が記録された.
3.ねぐら入りするカラスの種を調べた結果,ほとんどがハシブトガラスであった.
4.ねぐら入りの時間帯は,日の入り時刻のおよそ2時間前の午後3時頃から始まり,
日の入りの30分前に集中していた.
コースは相模湖ピクニックランド付近の鼠坂付近から内郷中学校,内郷小学校の上空を
通過して,道志橋を経由した後に三ヶ木のゴルフ場上空を旋回して又野のねぐらに向かう
グループと,鼠坂付近から国道沿いに寸沢嵐に達して直接又野のねぐらに向かうグループの
二つがあった.
小田原市栢山におけるツバメ類の巣調べ
竹内友香・竹内時男:
【要約】
1.1997~2001年に小田原市栢山地区にはツバメ類の巣が109ヶ所あり,その95%はツバメであった.
2.1997年と2001年の巣の数を比較すると,やや減少傾向がみられた.
3.巣は駅前の商店街に多く作られ,1階部分に位置しているものが多い.
4.巣を作る壁の材質はザラザラで,目立たない色が多く選ばれていた.
5.住宅では外から見えにくい位置に巣を作り,商店では店先の見えやすい位置に作る傾向があった.
神奈川県における防鳥ネットの使用に伴う鳥類の被害状況
藤井幹
【要約】
1.神奈川県において,鳥類が防鳥ネットに絡まって死亡している現状を把握し,防鳥ネット
及びその使用方法に関して改善事項を検討するために,2000年8月12日から10月21日
まで県央から県西にかけて任意に踏査を行った.
2.踏査した結果,8種107羽の鳥類が防鳥ネットに絡まっていた.
3.調査期間において防鳥ネットが使用されていたのは主に水田と果樹園で,水田ではスズメ,
果樹園ではムクドリが最も多く絡まっていた.この他にも,それぞれの農作物に対して加害鳥
とはならない種も絡まっていた.
4.防鳥ネットの色やメッシュの大きさ,そして使用方法を改善することで,防鳥ネットに絡まる
鳥類の減少が期待された.
横浜市寺家町の野鳥
高田哲良
【要約】
横浜市の最北部にある青葉区寺家町(通称「寺家ふるさと村」)において,1988年から不定期に 鳥類を観察し,記録をとってきた.
1998年からは年間を通して毎月主要観察ポイントを中心に回るようにしてきた.
その結果2001年7月末現在でのべ観察回数321回観察種数17目36科124種を確認した.
筆者が直接確認できなかったものや,周辺部で確認されているものを加えると約150種程度が推定出現種数とみられる.
神奈川県におけるカワウの分布状況(第2報)
日本野鳥の会神奈川支部
【要約】
1997年から継続している相模川水系における個体数調査を,2001年2月~5月に実施した.
同時最大個体数が記録されたのは,2月で587羽であった.過去5年間の傾向をまとめると,
大まかな傾向として,2月から5月に向けてカワウの個体数が減少していくことが分かった.
また,本支部が毎年1月に実施しているガンカモ類一斉調査において,カワウの個体数調査も同時に行った.
2001年の調査は1月21日を中心に行われ,カワウの出現地点は33地点,合計1,078羽で,昨年より200羽ほど多く記録された.
おおまかにまとめると京浜沿岸地域455羽,多摩川流域251羽,相模川流域227羽,酒匂川73羽,その他72羽となる.
神奈川県における定線センサスの結果(2000年)
日本野鳥の会神奈川支部
本支部会員が行っている定線調査について2000年の調査結果についてまとめた.
調査が行われたのは,63ヶ所であった.
全体では,155種が記録され,他に逸出または帰化種として12種が記録された.
1ヶ所あたりの平均記録種類数は在来種40.1種,帰化種1.8種であった.
また,もっとも多くの種類が記録されたのは1999年に続いて多摩川河口であった.
また,定線調査の結果からよみとれることとして,エナガは夏期の記録ヶ所数が少なくなること,オナガの分布は県央地域に偏っていること,セキレイ類ではキセキレイ・ハクセキレイ・セグロセキレイの順で越冬期の出現ヶ所数が増加することが示された.
神奈川県におけるカラス類の集団ねぐらの変遷
日本野鳥の会神奈川支部
神奈川県下で過去に記録されたカラス類の集団ねぐらの所在地についての情報をとりまとめ,50ヶ所をリストアップした.
また,これまでに行われたそれぞれのねぐらでの個体数調査の記録を網羅的に一覧表として示した.
神奈川県内における鳥類の写真記録6
日本野鳥の会神奈川支部鳥類目録編集委員会
1998年以降,県内で撮影された鳥類の記録として,セグロアジサシ・クロアジサシ・シラヒゲウミスズメ・トウゾクカモメ・クビワキンクロ・オオヒシクイ・カラフトムシクイ・ハイイロオウチュウ・サンジャクを紹介した.