要約
2000年川の自然調べ-会員参加による川の自然環境調査-
日本野鳥の会神奈川支部
日本野鳥の会神奈川支部が,会員に呼びかけて2000年5月と12月に行った「川の自然しらべ」の結果についてまとめた.
県内の河川について合計174 区間についてデータが得られた.
河川環境については,河川の種類・護岸率・水深・川原のようす・ヨシのようす・川原の植物・川岸の樹木・魚のようす・ゴミのようす・水質の10項目について整理を行った.
また,カルガモ・カワセミ・バン・オオヨシキリなどの出現鳥類について分布図を作成するとともに,環境との関係について解析を行った.その結果,バンの生息にはヨシが多い,川原が安定しているなど,オオヨシキリの生息には川幅が広くヨシが多いなどの条件が必要であることが推定された.
神奈川県中央部におけるサギ類3種の水田利用状況と行動.
佐藤誠三・草苅紫乃・上月陽子・神戸浩恵
1.2001年6~9月の間,神奈川県中央部の相模原市,平塚市,伊勢原市,愛川町の
水田地帯におい て,シラサギ類3種について環境利用の状況と行動を調査した.
2.湛水田と周辺の環境である草地,畦,畑,水路,道路など5つの環境での利用状況を
調べたとこ ろ,チュウサギ(90.5%),アマサギ(91.0%) 2種共に湛水田の利用が9割と
高い値を占め顕著であった.
一方,コサギは湛水田が37.8%と低く,周辺環境の畦での割合が(79.1%)と高かった.
3.シラサギ類3種の水田環境での行動をみると,チュウサギでは(採食64.2%,休息19.4%,
警戒 16.4%),採食が主要な行動であった.アマサギは(採食64.1%,警戒9.9%,休息
26.0%),採食が 主要な行動であった.
コサギでは(休息49.6%,警戒28.1%,採食 22.3%),休息が全体の約5割近くも占め,
採食の割合が約2割と低く,チュウサギ,アマサギとは異なった行動が顕著であった.
4.チュウサギ,アマサギは水田環境での利用のなかで採食行動が主要な行動であったが,
その季節 的変化を見るため6~9月の間,季節が進むのに伴って採食行動がどのように
変化するか調べたところ,チュウサギは(6月77.9%,7月64.3%,9月47.6%)季節がすすむ
につれて採食行動の 割合の低下が顕著であった.
「ジジロ,ジジロ」と鳴く鳥についての検討.:松田道生
神奈川県などで渡りの時期に「ジジロ,ジジロ」と鳴くメボソムシクイが記録されている.
メボソムシクイの亜種としては,基亜種のコメボソムシクイ,日本周辺の亜種メボソムシクイ,アラスカにいるアメリカコムシクイの3亜種が認められるが,声紋の分析を行った結果,ジジロと鳴く個体の囀りは,これらのいずれとも一致しないことが明らかになった.
北海道から千島にかけて,同じ囀りをする個体群が分布しており,別亜種を構成する可能性もある.
町田市住宅地におけるツミの繁殖-生活史(繁殖期間)及び餌-
かしの木山自然公園愛護会野鳥部会・飛岡文人
2001年に,東京都町田市南部の住宅地で,ツミの繁殖行動を全繁殖期間にわたり観察した.
2月6日に♀が確認された.
求愛期にはディスプレーフライトは観察できなかったが,カラスへの攻撃が見られた.
また,交尾がさかんに行われた.巣作りは♂♀が共同で行った.
5月4日に確実に抱卵に入り,6月1日に雛3羽が確認された.
抱卵期間は,少なくとも28日であった.育雛期には♂が餌をとり,巣の近くで♀が受け取った.
雛が巣を離れるまでに22日間,さらに雛が巣の周辺から見られなくなるまでに24日間を要した.
育雛期の餌はすべて鳥類で,終日観察を行った2日間の観察結果では,26例のうち,53.8%をスズメが占めていた.
従来の報告よりも1日あたりの給餌回数が多かった.
また,餌が余った時,貯食した.
ツミの幼鳥がオナガの黄色い雛を食べていた例があった.
「キリン横浜ビアビレッジ」に飛来する野鳥について
-ハビタットとしての緑地庭園-.:永井紀行
横浜市鶴見区の工場内に設けられた緑地庭園において鳥類とその他の生物の調査を行った.
その結果,22種の鳥類と,27種の小動物が記録された.
緑地庭園に飛来する鳥類は,ハクセキレイ・カルガモなど定着度が高いものも見られ,ここが生息環境として一定の役割を果たしていると評価できる.
一方で,「定着」よりは「立ち寄り」による一時的な利用をしている種も多いが,ここは冒頭で述べたような工業地帯の一角であっても,周辺にはいくつかの大小の緑地,公園,ビオトープなどが存在していることで,これらとともに緑の回廊(コリドー)を構成している表れと考えられる.
このように,緑地庭園は鳥類のコリドーの一部になっている一方で,ハビタットとしても多様な利用がされており,京浜工業地帯の緑地庭園という,一見,生物とは縁が薄そうに思える場所でも,条件が揃えば生息環境として利用されているといえる.
屋敷林に作られた集団繁殖地におけるサギ類の観察記録(第2報)
-1995~2001年の観察-.新倉三佐雄
神奈川県高座郡寒川町の屋敷林に形成されるサギ類の集団繁殖地における観察記録のうち,1995年から2001年までの観察記録を報告した.
このコロニーで繁殖が確認されているサギ類は,アオサギ,ダイサギ,チュウサギ,アマサギ,コサギ,ゴイサギである.
観察記録は,集合時期・婚姻色・なわばり防衛行動・求愛行動・成鳥の鳴き声・巣材運びなど43項目に整理して報告した.
神奈川県におけるケリの繁殖初記録.:賴ウメ子・小野 武・田口節子
2002年5月に小田原市東大友において,県内で初めて確認されたケリの繁殖について,その状況を報告した.
繁殖が確認された地域は水田地帯で,営巣地周辺には梅林が点在する.
5月3日に卵が発見され,その後2羽の雛がかえったことが確認された.
5月22日に1羽の雛が行方不明になり,6月3日以降もう1羽も見られなくなった.
神奈川県におけるムジセッカの初観察記録.:古南幸弘・田丸義夫・藤田薫
1991年11月3日に横浜自然観察の森において観察された,オギ群落の縁に出入りするムシクイ型の小鳥について,
1.眉斑は白色で,目先側に橙色味はない.
2.眉斑は目の後方が一番幅広い.
3.嘴はムシクイ属にあるような細長い尖った形で,特に太短くはない.
4.上面にはオリーブ色味が全くない.
5. 尾は短め.
の諸点で神奈川県初記録となるムジセッカと判断した.
神奈川県における定線センサスの結果(2001年).:日本野鳥の会神奈川支部
神奈川支部会員によって実施されている,毎月1回の定期的なセンサス調査について2001年の結果を報告した.
2001年には,新たに22ヶ所で調査が開始され,合計82ヶ所で調査が行われた.
全体では,175種が記録され,他に逸出または帰化種として15種が記録された.
1ヶ所あたりの平均記録種類数は在来種38.0種,帰化種1.7種であった.
また,もっとも多くの種類が記録されたのは1999年,2000年に続いて多摩川河口であった.
神奈川県におけるカワウの分布状況(第3報).:日本野鳥の会神奈川支部
2002年2月から5月に,毎月1回行った相模川水系のカワウの一斉調査の結果を報告した.
1997年からの調査結果を総合すると,2月から5月に向かってカワウの個体数が減少していく傾向が明らかになった.
また,2002年1月に行われたカモ類の一斉調査の中で行われたカワウの個体数の集計も行い,全県で約1500羽が記録された.
神奈川カワウワークショップの記録.:日本野鳥の会神奈川支部
2001年10月28日に,神奈川支部および神奈川県内内水面漁業協同組合連合会の共催で開かれたカワウワークショップについて,発表と討論のようすを収録した.