1996年の保護研究部の活動
1.コアジサシの繁殖地の保護活動
2.鳥獣保護事業計画について
3.環境アセスメントに関して
4.横浜市の傷病鳥救護体制について
5.横浜市青葉区やじろ池遊水池の管理について
6.鳥獣保護区関係の意見書提出
7.西湘のニホンザル問題
8.その他
ここには,1996年に行った支部の保護研究関係の活動を,各機関への提出書類を資料として示しながら紹介する.
この年度は,コアジサシの営巣地の保護について新しい動きが生まれたが,この問題では,それぞれの地域の会員有志の動きが大きな役割を果たした.
●コアジサシの繁殖地の保護活動
県内におけるコアジサシの繁殖地は,東京湾岸の埋め立て地を除くと,相模川と酒匂川の河原や中州に限られている.
繁殖記録のある場所も,グラウンドや駐車場としての河川敷の利用,自動車の侵入,釣り人の立ち入りなどの影響が重なって,近年,環境条件の悪化が目立っている.
1996年度には,県環境部自然保護課からの委託調査を受けて,全県的な生息状況の把握に務めるとともに,酒匂川,相模川,横須賀市夏島において,営巣地の保護活動を行った.
それらについて紹介しておく.
・酒匂川
酒匂川については,継続的に河原や中州での繁殖が認められてきたが,会員による観察では,繁殖期間中に大雨が降り,三保ダムからの放流があると,川の増水によって巣や雛が流出して不成功に終わってしまうという問題があった.
そこで,1996年には,小田原市の頼ウメ子会員が中心となって「酒匂川コアジサシプロジェクトチーム」を発足させ,営巣環境の整備を行うことになった.
幸い,小田原市がコアジサシを市の鳥に指定したことをきっかけにして,その保護活動に取り組むことになったので,共同して活動を行った.
具体的には,飯泉取水堰下の河原は市が担当し,重機によって砂礫地をならし,草取りなどを行った.
この地点は,堰の管理のために立ち入りが禁止されており,人の立ち入りによる影響を受けにくい利点がある.
一方,プロジェクトチームでは,富士道橋下の中州を営巣場所に選び,1996年4月7日に手作業での台地作りを行った.
その作業には,支部会員を始め約100名の市民が参加した.
こうした活動の結果,コアジサシの繁殖が開始されたが,結果的に飯泉取水堰下は繁殖途中で一斉に巣が放棄される事態が起こり,繁殖は不成功に終わった.
その原因は明確ではないが,近くに営巣したチョウゲンボウの影響の可能性もある.
一方,富士道橋の台地では順調に繁殖が進み,少なくとも51羽の幼鳥が育った.
こうした保護活動に,小田原市が積極的に取り組んだことは,県内自治体の動きとして特筆すべきものと考え,野鳥の会本部と相談の上,会長名の感謝状を市に贈ることにした.
資料1.野鳥の会本部への感謝状発行の依頼文書
1996年7月24日
(財)日本野鳥の会 会長 黒田長久様
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
小田原市長への感謝状の贈呈について(依頼)
時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます.
さて,本県小田原市においては,市をあげてコアジサシの保護活動に取り組み,大きな成果をあげております.
自治体の積極的なそうした動きは,おおいに評価できることと考え、貴下よりの感謝状を贈呈して頂きたく,お願い申し上げます.
記
●保護活動の経緯
1.みどりと生き物を守り育てる条例制定 1994年9月
2.コアジサシの市の鳥への制定 1995年8月
3.営巣地の保護活動
(1)飯泉取水堰の営巣地の整備
近年,酒匂川水系での最大の営巣地であった飯泉取水堰下流側の中州について,環境整備を予算化し,良好な条件の砂礫地を造成した.また,市民からの参加者を募り,草取り,ゴミ拾いなどを行って,営巣に適した環境を作り上げた.
なお,この整備には300名の市民の参加があり,鳥類保護の普及の意味でも大きな効果があった.
(2)富士道橋下流の営巣地の整備
第二の営巣地として,富士道橋下流側の中州に土砂を盛り,増水に対しても安全な広さ10m×7m,高さ70cmの人工営巣地を整備した.
この作業は野鳥の会会員93名がボランティアとして参加してあたり,市は河川管理者への許可申請,
中州への仮橋の設置などを行った.
(3)営巣地のパトロール
繁殖期には,営巣地の見回りや記録写真の撮影などを行うとともに,市民に中州への立ち入りの自粛を呼びかけた.
●感謝状贈呈の理由
コアジサシを市の鳥に指定するだけでなく,その営巣地の保全と創出に取り組んだことは,積極的な環境行政として評価できる.
また,その過程では,予算化,河川管理者との交渉,市民への協力の呼びかけなどを着実に行い,ボランティアの力を活用しながら効果的な形で保全作業を実現させた.
●感謝状文案
小田原市長小沢良明殿
貴下におかれては,種の保存法に定められた国際希少種であるコアジサシを市の鳥に制定するとともに,酒匂川におけるその営巣地の保護に積極的に取り組まれました.
このことは,自然保護の観点から大きな意義を持つことと考え,ここに感謝状を贈呈いたします.
今後も継続的な保護事業の展開を期待しております.
以上
資料2.感謝状贈呈時の新聞記者への配付資料(本部名)
1996年8月13日
各位殿
(財)日本野鳥の会 会長 黒田長久
小田原市長への感謝状の贈呈について
小田原市では,市をあげてコアジサシの保護活動に取り組まれ,大きな成果をあげておられます.
本会では,自然保護の立場からこの活動を評価し,下記の通り感謝状を贈呈することにいたしましたので,お知らせいたします.
記
●小田原市における保護活動の経緯(資料1と同文)
●感謝状贈呈の理由(資料1と同文)
●感謝状の内容(資料1と同文)
●参考資料
・コアジサシについて
本州以南の各地に夏に渡来して繁殖するハトよりも小さい小型のカモメの仲間.
海岸や埋立地,河原の裸地で集団で繁殖する.
・「種の保存法」について
1993年に施行された,国内外の絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図るための法律.
国際稀少野生動植物種は,渡り鳥条約に基づいて絶滅のおそれありと通報のあった渡り鳥を含む.
コアジサシは日豪渡り鳥条約の指定種
連絡先:(財)日本野鳥の会保護・研究センター
・相模川
相模川については,1995年の繁殖状況から,河川敷への車の進入の制限や,営巣が確認された場合のロープによる立ち入りの規制などについて,1995年11月に県相模川総合整備事務所に要望書を提出した(本誌vol.3既報).
1996年には,海老名市社家地先の相模大堰建設現場と海老名市上郷において営巣が確認された.
相模大堰建設現場では,5月15日に営巣を確認し,自然保護課を通じて,広域水道企業団へ保護の協力を申し入れた.
同事業団の協力が得られ,営巣している造成地は繁殖期中には改変しないこと,立て看板を立てて釣り人を規制することになった.
もともと立ち入りが禁止されている場所なので,繁殖は順調に進み,6月12日の調査では34卵を確認した.
海老名市上郷の現場については,5月30日に営巣が確認され,自然保護課に下記の書類を提出し,ロープ規制を行うための河川法手続きと,そのために必要な漁業組合の同意を得てもらった.
なお,相模川でのこれらの活動には,厚木市在住の北條文彦会員が現地観察,関係者との交渉の中心になった.
資料3.相模川の営巣地保護への協力依頼
1996年6月4日
神奈川県環境部自然保護課長殿
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
相模川河川敷で繁殖するコアジサシの保護について(要望)
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.日頃より県土の環境保全についてのご尽力に感謝しております.
さて,相模川を代表する野鳥であるコアジサシが,本年も渡来し,営巣を開始しております.
ご承知の通り,コアジサシは近年営巣に適した環境が減少するとともに,個体数が激減しており,環境庁の「日本の絶滅のおそれのある野生生物」(レッドデータブック)において希少種,県立生命の星・地球博物館の「神奈川県レッドデータ生物調査報告書」では絶滅危惧種としてリストアップされています.
本年度,相模川では,海老名市社家地先の相模大堰建設現場と,海老名市上郷地先の中州で営巣が確認されました.
社家については,県当局のご理解で,立看板が立てられ,営巣が順調に進んでおります.しかし,上郷については,釣り人等の車の立ち入りが予想され,昨年度の状況から考えても,ロープ等によって規制を行わないと,巣や卵が危険にさらされる可能性が極めて高いと考えられます.
こうした事情に鑑み,下記の措置をとって頂きたく、お願い申し上げます.
なお,現地の写真および,規制対策案の図面を添付いたします.
記
・営巣地周辺にロープをはって立ち入りを規制するために,河川法上の必要手続きをとってください.
・相模川総合整備事務所,相模川漁業協同組合などの関係機関に保護への協力を求めてください.
・横須賀市夏島
横須賀市夏島でコアジサシが繁殖していることは,1995年に気づかれ(田中ほか 1996 BINOS vol.3:43-44pp.) 1996年も引き続き同地で営巣が確認された.
金沢探鳥クラブなどが中心になって現地調査を行ったところ,約200巣が確認され,しかも工事の進行状況によっては,多くの巣が壊れされてしまう恐れがあることが分かった.
そこで本会として,下記のような要望書を,埋め立て地の所有者である日産自動車株式会社と,埋立工事の許認可権者である横須賀市長に提出した.
その結果,工事を延期し,この年度の繁殖期間中は現状維持が図られることになった.
こうした協力に対して,日産自動車と横須賀市長に支部長名で感謝状を贈呈した.
資料4.日産自動車あての要望書(同文を横須賀市長にも提出)
1996年6月4日
日産自動車株式会社様
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
貴社 夏島埋め立て地でのコアジサシの保護について(要望)
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.
さて,貴社が事業用に造成している横須賀市夏島の埋め立て地において,野生の鳥コアジサシが繁殖している可能性があるとの情報のもとに,貴社の協力を得て横須賀市自然博物館が調査を行ったところ,下記のように多数のコアジサシが集団で繁殖していることが判明しました.
5月26日時点での調査結果
卵のある巣の数 190
卵の総数 359
このように今年,貴社の事業用地が東京湾岸でのコアジサシの一大繁殖地になっていることが明らかになりましたが,ここで工事が行われると,この鳥の繁殖に大きな影響がでることが考えられます.
そこで,繁殖が行われる夏の間,工事を延期して下さるよう要望いたします.
埋め立てなどにより繁殖場所である自然海岸,特に砂浜・砂礫地が減少したため,コアジサシは近年著しく減少し,環境庁から希少種に指定され国際的にも保護の必要性が叫ばれている野鳥(渡り鳥)です.
このように貴重な野生生物の保護に特段の配慮を下さるよう重ねてお願いいたします.
資料5.横須賀市長への感謝状の贈呈を報じる新聞記事(1996年9月21日付け神奈川新聞)
●鳥獣保護事業計画について
1996年には,神奈川県自然保護課によって,97年から5年間にわたって実施される第8次鳥獣保護事業計画の策定が行われた.
この計画については,市民団体としての意見を出す機会があったので,支部としての意見をまとめ,5月に要望書を提出した.
その後,県で作成した計画案の提示があったが,その内容は第7次計画とほとんど変わらないもので,支部としては大きな不満を感じるものであった.そこで,再び下記のような要望を提出した.
資料6.第8次鳥獣保護事業計画についての要望
1996年5月31日
神奈川県環境部自然保護課長殿
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
第8次鳥獣保護事業計画について(要望)
1.鳥獣保護区の設定について
鳥獣保護区は,都市化による森林緑地の減少への対策として,また山地においても多様な生物相を保全するために,可能な限り多くの地域で,また広い面積で設定をして頂きたいと思います.
以下の地域は特に速やかな指定をお願いします.(別紙地図参照)
1.三浦市小網代(良好な鳥類生息地) 2.相模川河口(シギチドリ類渡来地)
3.平塚市土屋(オオタカ営巣地) 4.平塚市吉沢~大磯町鷹取山(オオタカ営巣地)
5.平塚市大根川(シギ類渡来地) 6.大磯町照ヶ崎(アオバト集団飛来地)
7.厚木市中荻野(オオタカ営巣地) 8.厚木市上古沢(オオタカ営巣地)
9.秦野市蓑毛(オオタカ営巣地) 10.秦野市菩提(オオタカ営巣地)
11.秦野市表丹沢一帯(クマタカ営巣地)12.小田原市酒匂川(コアジサシ営巣地)
13.藤沢市遠藤(オオタカ営巣地)
2.銃猟禁止地域について
都市化が進む中で,危険性と鳥獣保護の観点から,相模川以東の全域および東海道新幹線より南側の全域は全面銃猟禁止区域に指定してください.
また,管理狩猟の観点から他都道府県と連携をとり,狩猟禁止を原則とし,狩猟を行う地域を猟区として指定するように環境庁に働きかけてください.
3.傷病鳥獣救護体制について
自然保護センターの救護施設の人的,設備的な充実をはかってください.
傷病鳥獣の救護および治療,そのデータベース化と傷病原因の分析,傷病鳥獣を減らすための対策を行う中心施設として,今まで以上の人員,設備,予算等の確保をお願いします.
また,効率的な救護のために各行政センター環境部から,救護施設への搬送体制の確立をはかってください.
搬送,救護,飼育に関してボランティアの育成と予算措置も併せてお願いします.
4.調査について
「神奈川県レッドデータ生物報告書」(神奈川県立生命の星・地球博物館,1995)で指摘された,絶滅危惧種,
減少種,希少種について,早急に調査を実施して保護対策を確立してください.
特に,クロサギ・ブッポウソウ・サギ類の集団繁殖地・コアジサシ・サシバ・クマタカ・オオタカ・アオバズク・
タマシギ・ヒクイナ・ホウロクシギなどのシギ類・ニュウナイスズメ・モモンガ・ヤマネ・ツキノワグマ・カワネズミ・
森林性コウモリ類、などについての調査を緊急に実施してください.
丹沢大山自然環境総合調査の終了に伴い,ニホンジカ・カモシカなどについての調査結果を継続的に
モニタリングしていくようにしてください.
また,丹沢と西湘のニホンザルについても継続的な調査を実施してください.
資料7.県の計画案に対する意見
1997年1月10日
神奈川県環境部長殿
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
第8次鳥獣保護事業計画の策定についてに関する意見
平成8年12月4日付けの自保第149号にて照会のありました,標記の件について回答いたします.
送付頂いた「第8次鳥獣保護事業計画書(素案)」を,「第7次鳥獣保護事業計画」と読み合わせて検討してみましたが,今回の素案は,前回の計画とほぼ同内容で,新しい試みに乏しく,本会としましては,このままではきわめて不十分と考えております.
自然環境保全審議会等にも,関係団体の意見として,その旨を報告して頂くようお願いいたします.
以下に不十分と考える点および疑問点を,具体的に列挙いたします.
記
1.生物多様性の保全に関して従来の方針から,なんら前進が見られません.
2.自然保護センターは,現状では啓蒙普及機関としての役割が強く,鳥獣保護センターの機能を十分に果していないと思われます.
今回の計画では,救護個体の治療,調査,救護体制の整備などについて,具体的な整備計画をあげるべきと考えます.
3.第7次鳥獣保護事業計画では,計画終了時に総計で40,691haの指定を予定されていたところ,39,756haの指定しか達成できていません.
今回の設定目標は,40,150haで,前回の目標面積をさらに下回っており,保護区の指定について積極的な取り組みが感じられません.
4.休猟区の設置の見送りには,強く反対します.国の鳥獣保護事業計画の基準にも全体の3分の1程度の休猟区を設置することが求められているはずです.
5.前回の倍以上のキジ・ヤマドリの放鳥が計画されていますが,野外に放した鳥の生存率などについて追跡調査を行い,放鳥の効果を確認して計画を立てられているのでしょうか.
そもそも鳥獣保護区へ集中的に放鳥を行うことは,特定種のみの個体数を増加させ、生態系のバランスをこわす恐れもあるようと思われます.慎重な立場での再検討を望みます.
6.有害鳥獣の駆除に関して,カラス・ムクドリ・キジバトに関して航空機航行障害とありますが,具体的にはどのような例なのでしょうか.
7.鳥獣の適正管理のために危被害対策協議会が設置されていません.管理計画は,どのように策定されるのでしょうか.
8.有害鳥獣駆除による捕獲個体の報告義務について,自然保護センターを中心とした科学的な管理体制作りを具体的にあげるべきと考えます.
9.狩猟鳥獣基礎調査について,捕獲管理計画の実施主体を明確にする必要があります.
10.狩猟実態調査は,狩猟者に対して,アンケート方式でどの程度の実態把握が可能であるか不明です.
猟期に関しては,チェックポイント方式での管理が必要です.上記管理計画と連動した,個体サンプルの提出も義務づける必要があると考えます.
11.銃猟禁止地区の設定は,相模川以東全域及び東海道新幹線より南側の全域の銃猟禁止という目標の達成が不十分です.
12.特定鳥獣等保護調査は,絶滅の恐れのある鳥獣,またはこれに準じる鳥獣などについて生息状況を調査するものと位置づけられています.
従って,「神奈川県レッドデータ生物調査報告書」(神奈川県立生命の星・地球博物館刊行)で指摘された,絶滅危惧種,減少種,希少種に関する調査を実施すべきであると考えます.ヤマネ・カワネズミ・モモンガ・コウモリ類などの小型哺乳類,サギ類の集団繁殖地,ヤマセミ・ブッポウソウ・ノジコなどについての調査は特に急を要します.
以上
●環境アセスメントに関して
①環境影響評価制度検討委員会の会議資料公開請求について
環境影響評価条例の改正が検討されている過程で(本誌vol.3 既報),情報公開を請求し,全面非公開となった件について,石井保護研究部長が神奈川県公文書公開審査会に異議申し立てを行っていた.
1996年4月25日に口頭意見陳述を行い,
1.アセスメントの様な県民生活に重大な影響を与える条例については,意思形成過程の公開こそ必要である
2.県民にかくされた審議では,信頼性を無くす
3.プライバシー保護については,個々の文書ごとに決定すべきで全文書非公開の理由にならない
などの趣旨を申し述べた.
この結果,10月16日に県公文書公開審査会は,資料の全面公開を求めた答申を出した.
しかし,この答申に先立ち,実際の資料は,5月に中間答申が県から発表され,6月に会議資料のコピーが認められている.
この件を振り返ってみると,1995年11月に求めた情報公開が異議申し立ての結果,1996年10月に全面公開の決定を受けたが,あまりにも遅すぎる.県も様々な面で,県民参加の方針を打ち出しているのに情報公開の精神に反する姿勢は納得できない.
②アセスメント手続きの改正のついての意見提出
神奈川県では,環境アセスメント条例が発足してから既に16年が経過したが,その運用が必ずしも自然環境の有効な保全につながっていない現状がある.
1996年には,アセスメントの手続きの一部改正が計画され,市民団体からも意見を提出する機会があったので,次ページのような要望を提出した.
資料8.条例の改正に対する意見
1996年11月
神奈川県環境部環境審査課長様
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
神奈川県環境影響評価条例改正骨子案についての意見
1.はじめに
神奈川県における,環境破壊の進行は以前にもまして早くなってきています.
しかし,自然環境を維持していく施策はかけ声ばかりきこえていて現実的な対応は,十分とはいえません.
環境影響影響評価条例も,自然保護の上で重要な手法でありますが,自然と人間の共存を目指す過程の1つです.
自然に関する知識,データーの蓄積や技術手法の開発等を計りながら今後の神奈川の自然を守るための重要な条例として位置づけていただきたいと思います.
2.環境基本法の目標達成のために
環境基本法の目標である,「自然環境構成要素の確保,日本における多様な自然環境の体系的保全」という具体的な目標達成の位置づけにおいて運用されることが重要です.
そのために,神奈川の地域特性としての多様な生態系の維持と,生物種の多様性の維持の原則が必要です.
3.事業アセスメントから計画アセスメントの転換
今回の改正案で,事前手続きが導入されていますが,現在のアセスメント制度の前だおし実施にすぎす,計画実行段階の一手続きにしかすぎません.
事業計画の可否や,立地変更をもふくめた計画段階でのアセスメント制度への変更でなければならりません.
現在,社会問題とされている石垣島・小笠原の空港問題,長良川・相模川の堰の問題など,計画段階のアセスメント実施こそ合意形成と客観的で科学的な解決方法だと考えます.
最終的に無駄な出費や手続きの混乱が起こらず経済的で,事業を行う場合でも質的に高い事業を行えると判断できます.
神奈川県の環境先進性を十分生かすために,計画アセメントスを取り入れるべきと強調いたします.
4.アセスメント対象の拡大
改正でも対象事業の追加と規模見直しが行われていますが,対象事業は,規模や内容に関わらず都市型県の自然要素の破壊には,重大な問題があります.
小規模面積の自然の改変の連続が,結果的に大きな影響をおよぼす事が考えられます.
またレッドデータブックに記載されている,生物種が小面積の地域で,生息している事があります.
(水田の環境,斜面緑地など)
また,現在作られている林道・治山管理道・農道・砂防堰堤などの事業は,すべてアセスメントの対象となっていません.
特に,自然環境を改変する事が大きい上記事業に関してアセスメントの対象事業とする事を強く求めます.
最後に対象事業は,1000平米以上の開発,神奈川県が作成した地域環境評価を利用したアセスメントが必要な地域区分(開発面積でなく地域別アセスメント区分),公共事業に関してすべてのアセスメントを計る,
上記3点のいずれかに該当する場合は,アセスメントを取入れ例外的な緊急時の災害復旧等の例に限定して行い原則としてすべての事業に適応することを求めます.
5.アセスメント審査は,第三者機関の設置によって
アセスメントは,民主的な合意形成手段として有効に機能させる必要があります.
そのために,現在の行政審査と別に科学的に検証するための第三者機関を設置しなければならないと思います.
そのさい,NGOや市民団体の推薦する専門家を必ず任命する制度が必要であることを強調いたします.
東京都などは,第三者機関などの検討をしているといわれています,神奈川県でも設置する事を求めます.
6.生態系の保護規定
現行のアセスメント調査対象は,自然の項目で地形・地質・植物・動物などの個々の要素にとどまっています.
生物種の存在だけでなく,自然環境を一体として捉えた生態系の保護を考えた規定が必要と思われます.
多様な種で構成される群集・生態系の保全は,地域の特性として考えられると思います.
神奈川県内の自然度が高い地域,人との関わりで生まれた里の自然,都市近郊の小規模な自然林など様々な生態系の保護のための考え方が必要であるはずです.
7.県民参加の保証
形式的でない県民参加の仕組みがアセスメント制度には,重要であることはいうまでもありません.
改善する余地が多いので要点を列記します.
*アセスメント手続きにおける県民による,検証期間は最低1年程度の時間を保証する事.
評価案の内容のチェック,調査内容の検証など専門的な事項に関して,実質的な県民参加は十分な期間を必要としなければならない.
*評価書案等は,県民が理解して意見の提出が容易なように,十分な情報量を維持しながら,グラフ等を活用する
事を義務づけて分かりやすく記載される事が望まれる.
*県民が評価書等に対する意見を提出するさいの,評価書内容の理解に必要な説明会を開催する事が望まれる.
専門的な議論にも実質的な県民参加が行われれば,アセメントス制度が質的にも向上が期待できる.
*評価書等の作成は,事業者が行ってるが公平性・科学性に欠けている例が多い.
上記5.における第三者機関と共同で評価書を作成する事が望まれる.
*実施計画,評価書ともに電子情報化して,通信機能を利用して全国からのアクセスが保証される事.
印刷物の用意,コピーの手間と費用面から解放されるので早急に実施される事を望む.
*再意見書の廃止は反対する.アセスメントにおける,意見交換は,時間と期間を十分に確保される事が必要である.
県民との意見交換は,事前手続きの意見書・評価書案に対する意見書・再意見書と3回の意見交換を求める.
8.アセスメント技術の向上
現行アセスメントは評価書において,ほとんど同じ記述内容が続いています.
これは,アセスメントの技術内容の向上が実質的に機能されていない証拠です.
アセスメント信頼性の確保と技術の向上には,報告書の記載内容に関して,業者名と所在地,担当者氏名の,及び予測・評価・対策の立案に関与した者の氏名・所属を明記して責任の所在を明かにする事が必要であると思います.
9.環境調査の継続化
現行アセスメントでは,自然環境の調査にわずかの時間をかけるのみです.
20年前の大気汚染が,丹沢のモミ林の被害に影響している件など長期的な影響評価に取り組む必要があると思います.
全県的な環境モニタリング体制を確立し環境変化の時間的な変化の情報蓄積を計ることが大きな必要性を持っています.
③支部刊行物の引用について
支部が刊行した鳥類目録は,県内の鳥類の生息状況について,基本的なデータベースになるものであり, そのために各種調査に引用したい旨の申し入れがたびたびある.そうした引用については,本誌巻末の引用に関する記述にあるように,あくまで,市民の立場で活用するデータベースであるというのが基本的な立場である.
その趣旨で,引用を断っていることが多いが,その断りの通知の一例を示しておく.この例にあるように,引用希望者は,仕事の内容を抽象的にしか伝えてこないことも多く,十分,相手方の事情を把握した上で 態度を決めるべきであろう.
資料9.刊行物の引用についての通知例
○○コンサルタント担当者殿
1996.2.28 浜口哲一(日本野鳥の会神奈川支部)
書類(引用許可願)を拝受いたしました.
見せて頂いたのですが,この内容では抽象的過ぎて,よろしいともだめとも言いかねるというのが率直なところです.
「藤野町・相模湖町のデータを一覧表として,当該事業の対象地の鳥類相のバックグラウンドの表と
して用いる」とか「藤野町の○年○月○日のオオタカの観察記録を当該事業地の記録として引用する」とか,使い方を具体的にお書き下さい.
また,お電話では,文献調査を依頼されているとしかお話しがありませんでしたが,書類を見ると環境アセスメントの一環の仕事であるようです?我々としては,環境アセスメントでの使用には特に慎重になっており,今までの環境影響予測評価書もすべて目を通して,我々のデータがどんな使われ方をしたかチェックしております.
その中には,意志に反した使われ方も見受けられて遺憾に思っているところです.
先日お送りしたコピーにありますように,アセスメントの手続きの中では,市民の立場で意見書を出す折に,我々のデータは参考資料として使っていきたいというのが,基本的な立場です.
アセスメント関連であるならば,今回も許可ができるかどうかは,役員会にかけることになりますので,悪しからず御了承ください.上記の書き直しを送って頂いた上で相談するようにします.
●横浜市の傷病鳥救護体制について
神奈川県の傷病鳥救護は,県立自然保護センターが中心となり,県から委託を受けた横浜市立野毛山動物園と,金沢自然動物園も担当施設となっている.
このうち横浜市の施設が,取り組みを見直す動きがあるとの情報があったので,横浜市長あてに救護体制の存続を要望し,存続する旨の回答を得た(本誌vol.3既報).
また,1996年7月8日には,岩田,石井両幹事が緑政局の担当者に面談して情報を収集した.
その後,横浜市では動物園の運営を外部委託する動きがあるため,下記の通りの照会を行い,横浜市から回答を得た.
こうした書類で見られるように,横浜市では当面,傷病鳥獣の救護活動を廃止縮小するような考えはないようだが,財団法人が運営を行うようになった場合には,方針が変わっていく可能性もあるので,支部としては引き続き,経緯を見守っていきたい.
資料10.横浜市の傷病鳥救護体制に関する照会
1996年10月
横浜市長様
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
横浜市動物園の傷病鳥獣救護体制について(照会)
拝啓.日頃から自然保護行政への推進にご配慮いただきありがとうございます.
さて,7月8日の動物園担当者との話し合いによりますと,野毛山動物園を含め,傷病鳥獣の救護体制は今後も継続する事という確認をいたしました.
しかし,朝日新聞9月8日付けによりますと,動物園の管理を外郭団体に委託することになる,という記事がありました.
そこで,以下の通り質問をいたしたいのでよろしくお願いいたします.
1.外郭団体への委託は,どの範囲(野毛山,金沢など)で行うのか.
2.外郭団体への委託が行われた場合,傷病鳥獣救護に関わる,人員・予算などは横浜市で負担するのか.
資料11.上記の照会に対する横浜市からの回答
緑政企 612号
平成9年1月31日
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一 様
横浜市緑政局長
横浜市動物園の野生傷病鳥獣救護体制について(回答)
日頃から横浜市の動物園行政に御協力を賜り,厚くお礼を申し上げます.
さて,1996年10月11日に照会のありました標記については,次のとおり回答いたします.
1.新動物園の運営管理については,(財)横浜市緑の協会に委託することとしております.
2.野生傷病鳥獣保護事業については,新動物園においても行ってまいりたいと考えております.
担当 緑政局総務部動物園等担当課長
●横浜市青葉区やじろ池遊水池の管理について
横浜市青葉区寺家のやじろ池にバンが繁殖しており,管理者である下水道課の草刈り作業が繁殖に影響を与える恐れがあるとの報告を地元の会員の方から頂いた.
保護研究部として対応し,石井部長が現地を見学後,担当者と面談し,下記のような要望を提出した.
担当者との話し合いによって,この要望はほぼ満たされる形で解決した.
資料12.横浜市下水道局に提出した要望
1996年10月
横浜市下水道局局長様
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
青葉区やじろ遊水地の管理について(要望)
日頃から自然保護行政の推進に御尽力いただきありがとうございます.
さて,8月30日,9月9日の話し合いの内容からやじろ遊水地での,草刈等の管理が,やじろ遊水地での鳥類の繁殖に影響が及んでいる可能性が大きいと判断できました.
当地における,97年度以降の管理体制については,鳥類の生息状況を十分に配慮していただきたいと思います.
野鳥の会神奈川支部としましても,やじろ遊水地での鳥類の生息状況の調査を行い,横浜市との情報交換につとめるつもりです.
以下の通り,要望いたしますのでよろしくお願いいたします.
1.5月から6月の鳥類繁殖期における,草刈等の管理は,バン・カイツブリ等の鳥類の繁殖に影響がない事を確認して行って下さい.
2.公園(野球場)とのフェンスは,ファウルボールが入らない範囲に高さに変更して下さい.
●鳥獣保護区関係の意見書提出
県環境部からの依頼によって,鳥獣保護区の更新および新設について意見書を提出した.
今年度,提出したのは,6月に三保鳥獣保護区,吾妻山公園鳥獣保護区,相模湖北鳥獣保護区の設定および多摩川鳥獣保護区,清水寺公園鳥獣保護区,三ツ池公園鳥獣保護区の存続期間の更新であり,どれも賛成の意見を述べた.
下記に意見の例を示しておく.
資料13.鳥獣保護区の更新への意見の例
平成8年6月28日
神奈川県知事岡崎洋殿
横浜市神奈川区東神奈川1-1-4第3ケイヒンビル
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
相模湖北鳥獣保護区の設定についての意見
平成8年6月13日付け自保第51号で通知のあった標記のことについての賛否および意見は次の通りです.
1.賛否 賛成
2.意見および理由の要旨
神奈川県内は近年急速に都市化が進み,鳥獣類の良好な生息地は加速度的に減少しています.
一方で都市環境に生活する住民からは,自然とのふれあいを望む声が高まっており,鳥獣類の多く生息する自然度の高い緑地を確保することは環境行政の重要な課題の一つです.
そうした施策の一環として鳥獣保護区の意義は今後ますます大きくなっていくと考えられます.
さて,相模湖北鳥獣保護区は,小仏山地の南面の広い面積をカバーしており,スギなどの植林と雑木林がモザイク状に入り交じった複雑な植生と深い沢を持っています.こうした環境は,多くの森林性鳥類の生息地であると同時に,ニホンザル・カモシカなどの大型哺乳類の生息も可能にしています.
また,この地域は,アカショウビン・ブッポウソウなど県内の他の地域では稀な種類が生息することでも知られています.
こうした地域が,鳥獣保護区に指定されることは,県内の鳥獣類の多様性を保っていく上で大きな意義があると考えられます.
そうした意味で設定に賛成します.
以上
●西湘のニホンザル問題
小田原市,南足柄市などではニホンザルによる農業被害が大きな問題となっており,県による
「野猿の郷」整備事業,保護団体による追い上げ活動などの試みが行われている(本誌vol.3参照).
1996年11月9日には,県の主催で「県西地域の野猿を考えるつどい」が催され,支部からは石井隆保護研究部長と湯河原町の府川勝臣会員が出席した.
農家からは,駆除の要望も強いが,野生状態で群が存続し,農耕地と一定の距離をおいて生活するような状況が生まれるように,今後も可能性を探っていきたい.
●他の保護団体との関わり
日本オオタカネットワークに支部から石井隆保護研究部長が役員として出席している.
また,神奈川県自然保護協会では,村上司郎前支部長が理事を退かれたので,石井隆保護研究部長が替わって理事として参画することになった.
●その他の調査活動
・委託調査/神奈川県からの委託によって,コアジサシの生息状況調査を行い,報告書を提出した.
また,第8次鳥獣保護事業計画の中で鳥獣保護区の指定候補地にあげられた,秦野市戸川公園など20カ所について越冬期の鳥相を調査して報告した.
・ガンカモ調査/毎年1月15日に実施しているカモ類の一斉調査を本年度も約50カ所で実施し,
総数18,009羽のカモ類を記録した.
・モニタリング調査/本部の呼びかけによるモニタリング調査の2年度目として,干潟のシギ類の調査に参加し, 多摩川河口,相模川河口,江奈湾,平潟湾の4カ所について報告した.
・丹沢大山自然環境総合調査への協力/1993年から進められている総合調査には,鳥類班として支部の有志が参加し,報告書のとりまとめにあたった.
・鳥類目録の編集/1997年に予定している「神奈川県鳥類目録第3集」の準備作業として,隔月に編集
委員会を開催し,提出された観察記録カードの整理などを行った.
この会合には,常時20名程度の参加者があり,協力者へのニュースレターの発行なども行っている.
・イワツバメの分布調査/沼里和幸会員が中心となり,全県的なイワツバメのコロニーの分布調査を行った.
その結果は本誌に発表されている通りである.なお,調査にあたって,下記のような書類でコロニーのある施設や事業所などの協力を求めた.
平成8年4月1日
各位殿
日本野鳥の会神奈川支部 支部長 浜口哲一
イワツバメ分布調査への協力について(依頼)
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます.
さて,当会は,野鳥観察を通じて自然に親しむことを目的とした団体ですが,神奈川県内に生息する鳥類の分布状況について継続的に調査を行っております.
その中で,特に注目している種類にイワツバメがあります.
イワツバメは橋や建物など人工建造物に集団で巣を作る習性を持っており,近年県内での分布を急速に広げているため,その動向を把握したいと考えております.
こうした理由で,貴下の管理されている建物に営巣しているイワツバメの営巣状況について調査をさせて頂きたく,お願い申し上げます.よろしくおとりはからいください.
以上